このまま続けていいのだろうか?損益マイナスでも給料を注ぎ続ける日々…「億り人」になった私が〈投資人生の冬の時代〉を乗り越えられたワケ

このまま続けていいのだろうか?損益マイナスでも給料を注ぎ続ける日々…「億り人」になった私が〈投資人生の冬の時代〉を乗り越えられたワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

氷河期世代で「26歳、貯金ゼロ、ローン持ち」のごく普通のサラリーマンだったのに、25年かけて「億り人」となった個人投資家・水瀬ケンイチ氏。リーマン・ショック後、資産が5年以上マイナス圏で推移する厳しい時期も経験しましたが、損失が続く中でも毎月の積み立てをやめず、低コストのインデックスファンドを活用しながら投資を習慣化することで、この長期の試練を乗り越えました。水瀬氏の書籍『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』(Gakken)より、著者が「投資人生で最も長く、最も厳しい忍耐の時期だった」と振り返る時代を紹介します。

日本の投資環境がついに進化

この厳しい市場環境の一方で、日本の投資環境では大きな進歩があった。それは、低コストなインデックスファンドの台頭だ。日本の個人投資家がインデックス投資を実践しようとすると、これまでは各資産クラスの低コストインデックスファンドがバラバラの金融機関に点在していて、ひとつの証券会社では揃わないという状況だった。日本株なら証券会社A、外国株なら証券会社B、というように複数の証券口座を開設して管理する必要があり、非常に煩雑だった。

 

ところが、STAMシリーズ(現SMTシリーズ)とeMAXISシリーズという画期的なインデックスファンドのシリーズが登場した。これにより、同じシリーズで日本株式、外国株式、日本債券、外国債券の各資産クラスのインデックスファンドが揃い、それらをひとつの証券会社で投資できるようになったのだ。「やっと日本でも本格的なインデックス投資ができる環境が整ってきた」と感じた瞬間だった。

 

両シリーズとも信託報酬は年0.4~0.6%程度で、当時としては低コストであり、運用も手堅いものだった。特に、eMAXISシリーズは「お客様の声にお応えして」という企業姿勢を前面に出し、たびたび「ブロガーミーティング」を開催して個人投資家からの意見や要望を募り、それを運用設計に反映させ、低コスト運用に徹していた。

 

さらに、長年待ち望んでいた新興国株式クラスのインデックスファンドが各シリーズに登場したことも大きな進展だった。これにより、日本株式、先進国株式、新興国株式を組み合わせて、『ウォール街のランダム・ウォーカー』などで推奨されていた全世界株式のポートフォリオをようやく作れるようになった。

 

その後も、「インデックスe」シリーズ、「Funds−i」シリーズ、「購入・換金手数料なし」シリーズなど、さまざまな運用会社から低コストなインデックスファンドシリーズが続々と登場した。運用会社間の競争が活発になり、信託報酬の引き下げ競争も始まった。私たちインデックス投資家にとっては選択肢が増え、より低コストな商品が次々に現われる、うれしい悲鳴の時代となった。

ちょっと待った!  ~商品選びの落とし穴とポートフォリオ迷宮化

新しい低コストインデックスファンドが続々と登場してきたが、私はすぐに飛びつくことはしなかった。これまでに金融機関の都合による繰上償還や取扱廃止によって何度も泣かされてきた経験があったからだ。せっかく積み立てていたインデックスファンドが、ある日突然「残高が少ないため繰上償還します」と通知が来て強制的に売却させられ、売却時の市場環境によっては損失を確定させられるという苦い経験を何度もしていた。

 

そのため、新規のインデックスファンドに投資する前には、1年かけてじっくりと吟味することにしていた。第1回の決算後に公開される第1期運用報告書の内容を隅々まで読み込み、公表されている信託報酬だけでなく、監査費用や売買委託手数料などその他の費用も合算した実質コストを確認した。また、ベンチマークであるインデックスとの差異(トラッキングエラー)に異常値がないかも重要なチェックポイントだった。これらに問題がないことが確認できて初めて、新規積み立て商品として採用した。

 

新しいインデックスファンドに乗り換える際には、税金の問題も慎重に考慮した。積み立てファンドの乗り換えのために旧ファンドを売却すると、含み益がある場合は課税対象となり、新ファンドを買う資金が税金分だけ減ってしまう。複利効果を最大化するためには、できるだけ運用資金を減らさないようにしたかった。

 

そこで、私の選んだ戦略は「新規積み立て分だけを新ファンドに変更し、既存ファンドはそのままホールドする」というものだった。たとえば、A社の日本株インデックスファンドからB社の日本株インデックスファンドに乗り換える場合、A社のファンドは売却せずにそのまま保有し、新たな積み立て分だけをB社のファンドに振り向けるという方法だ。

 

この方法により税金負担を避けることができたが、一方で新たな問題も生じた。それは、ポートフォリオが複雑化してしまうことだ。何年も積み立てと乗り換えを繰り返していくうちに、気がつけば同じ資産クラスに複数のインデックスファンドを保有する状態になってしまった。日本株式で4本、先進国株式で4本、新興国株式で2本、日本債券で3本、外国債券で2本……といった具合だ。合計すると15本ものインデックスファンドを抱えることになり、ポートフォリオの管理が非常に煩雑になった。リバランス(資産配分を所定の配分に戻す作業)を行う際も、同じ資産クラスなのに複数のファンドに分かれているため、計算が複雑になる。株式:債券=8:2という基本方針は保っていたものの、その内訳がバラバラのファンドに分散していて計算が煩雑になっていた。これはインデックス投資のシンプルさという大きなメリットを損なう事態になりつつあった。

 

長期投資においては、保有資産をシンプルに保つということが思いのほか重要なのだと思い知らされた。

 

 

 

水瀬 ケンイチ
個人投資家

 

 

※本連載は水瀬ケンイチ氏の書籍『彼はそれを「賢者の投資術」と言った』(Gakken)を一部抜粋・再編集したものです。

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