前回は、完全自動式の高機能倉庫において、床にレールが敷かれたまま、工事を行った事例をご紹介しました。今回は、地下空間に多くの配管が張りめぐらされていた工場での施工事例をご紹介します。

建物の構造や状態に合わせて施工方法をカスタマイズ

Q床下の正確な図面がないと、工事はできないのですか?

 

そんなことはありません。

床下の図面がない建物の工事をする機会はよくあります。

 

そもそも建物というのは、その大きさや形、立地条件、用途によって、構造は千差万別です。沈下修正の施工は、建物の構造や状態に大きく左右されますから、施工方法は一言で言ってしまえば「ケース・バイ・ケース」にならざるをえない部分が多くあります。

 

また、信頼に足る図面がなかったり、図面があってもそこに必要な情報が欠けていたり、ということもあるのです。ある装置メーカーの工場もそうでした。

図面と実際で配管の位置がズレていることも珍しくない

企業誘致の特区を目指してつくられた、埋め立て地の工業団地にある工場です。地盤が軟弱だったために不同沈下を起こし、床面は最大で68ミリの沈下。また場所によっては床下に100ミリの空隙ができてしまっているという具合で、沈下修正工事が行われることになったのです。

 

しかし、ここで問題だったのは、この企業がさまざまな特殊な薬品を使うため、床下に複雑に配管がめぐらされている、ということでした。そして、建築の分野に馴染みがない人にとっては意外でしょうが、実は、図面に描かれている配管と、実際の配管の位置は同じでないことが多いのです。

 

この工場は、その典型例でした。図面に描かれた配管は、入り口と出口はとりあえず正確ですが、それを結んでいる経路は、率直に申せば「入り口と出口の対応関係を示している」だけ。要するに、デザイン化された地下鉄路線図のようなものです。しかも、管によっては床下を通っているものもあれば、土間コンクリート内部を通っているものもあるという具合。特殊な薬液が通る管ですから、施工時にドリルで孔を開ける際、間違えて傷つけてしまっては大事になりかねません。

 

そこで、その工場の建築中の記録写真を提供してもらいました。コンクリート打ちの前の状態で、たまたま写真に写りこんでいる配管から、ひとつひとつ位置を割り出していったのです。写っていない箇所もありましたが、写っていた配管を根気よく辿ることで解決しました。

 

このように、床下の正確な図面がなくても、多くの場合、工事は無事に終えられます。

地下で複雑にめぐらされている様子がうかがえる、配管の一部
地下で複雑にめぐらされている様子がうかがえる、配管の一部

本連載は、2016年11月25日刊行の書籍『改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9割』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9 割

改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9 割

松藤 展和

幻冬舎メディアコンサルティング

4年前出版し関係者の間で話題沸騰したあの書籍が、「傾いた床」による様々なリスクを追加収録し、 【改訂版】としてパワーアップして帰ってきた! たった0.6度の床の傾きで、業務も傾く! 日本の建物の9割が地盤に起因…

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