「父の“異変”は、ある日突然でした」
会社員の藤村健介さん(仮名・48歳)は、都内で妻と子ども2人と暮らすごく普通のサラリーマンです。年収は約480万円。生活に余裕があるとは言えませんが、堅実にやりくりしてきたといいます。
そんな藤村さんに転機が訪れたのは、3年前。75歳になる実父・正一さん(仮名)の様子が明らかにおかしくなったことがきっかけでした。
「同じことを何度も言う、ゴミを冷蔵庫に入れてしまう、財布をなくす。最初は加齢のせいかと思っていたのですが、ある日、自宅の住所が思い出せず道に迷ったとき、深刻な状態かもしれないと悟りました」
専門医の診断結果は「アルツハイマー型認知症」。すでに中期の進行レベルで、ひとりでの生活は危険と判断されました。
正一さんの暮らしぶりを確認すると、年金は月額約4万円の国民年金のみ。過去に自営業をしていた期間が長く、厚生年金に加入していなかったことが影響していました。加えて、預貯金は数十万円程度しかなく、生活保護の申請も検討されたといいます。
「母は10年前に亡くなっていて、父はずっと一人暮らし。妹は遠方で家庭を持っていて、“そっちで何とかして”の一点張り。となると、僕が引き取るしかなかったんです」
しかし、藤村家の家計も決して余裕があるわけではありません。住宅ローンに加え、上の子どもは高校生。学費や生活費がかさむ時期に、「もう一人分の生活費」が加わることは、現実的な負担増を意味しました。
正一さんを引き取ってからの生活は、藤村さんにとって「想像以上に過酷」なものでした。認知症の影響で昼夜逆転が進み、夜中に家の中を徘徊したり、ベランダに出たりすることも。要介護2の認定を受け、週2回のデイサービスを利用していましたが、それでも日常の見守りが必要でした。
「妻も最初は協力的だったんです。でも、実の親じゃないし、だんだんと不満が表に出てくるようになって…。父に声を荒らげてしまうことも増えて、家の空気がピリつく日が続きました」
一方、遠方に住む妹とは「介護や費用の分担をめぐって、何度も揉めた」といいます。
「“手伝えないけど口は出す”ってタイプで。『介護サービスをもっと増やせば?』とか、『市に相談したの?』とか、こっちが全部やっているのに、外野からは言いたい放題」
