「お互い、自由に生きよう」
「定年を迎えたとき、正直ホッとしました。もう働かなくても、好きなことをして生きられるって」
そう語るのは、73歳の光男さん(仮名)。地方銀行に長年勤務し、役職定年後も契約社員として働き続け、65歳で完全退職しました。退職金は約2,000万円、年金(厚生年金+企業年金)は合わせて月28万円。住宅ローンも完済済みで、生活基盤は整っていました。
退職の少し前、妻からこう切り出されたといいます。
「あなたのことは嫌いじゃないけど、これからは別々の人生を歩きたいの。お互いの老後を縛り合うより、自由に生きたほうがいいと思うの」
結婚生活は40年近くに及んでいましたが、円満な話し合いの末、離婚を決意。子どもたちもすでに独立しており、「誰にも迷惑をかけない第二の人生」のはずでした。
離婚後は、都心にある駅近の分譲マンションを購入し、一人暮らしをスタート。時間とお金に余裕のある生活に、当初は解放感すらあったといいます。
「旅行もしたし、語学サークルにも顔を出していました。60代のうちに新しいパートナーに出会えたらとも思っていましたし、人生はまだまだこれからだと本気で思っていたんです」
ところが、時間が経つにつれて少しずつ孤独が心に染みてくるようになりました。サークル活動も疎遠になり、旅行も「一人ではつまらない」と感じるように。
「誰かに見守られているという安心感がなくなると、不安になるんです。風邪をひいても、病院に行っても、誰もいない。体力が落ちてきたことも実感するようになって、怖くなりました」
孤独を紛らわすように、光男さんは買い物やサブスク契約、外食を重ねるようになりました。趣味もなく、何となくネット通販で高額商品を買っては一時的な満足感を得る…という生活が続きました。
気づけば、退職金2,000万円のうち、7年で1,400万円以上を使ってしまっていたといいます。
「そのうち誰かと再婚できればと思っていましたが、そううまくはいきません。今さら婚活なんて、気力も体力も持ちませんし、何より“老い”が邪魔をします」
