念願の結婚…「娘が最優先」父としての想い
Aさん(仮名・65歳)は、都内の企業で長年営業職として働いてきました。家庭を持つのが夢でしたが、その願いが叶ったのは42歳のとき。婚活パーティで知り合った7歳年下の女性と結婚し、2年後には待望の娘を授かりました。遅れて訪れた幸せに、Aさんは心の底から喜びを感じたといいます。
「家族をもったらマイホームを買うのが当然」と、独身時代の貯金を頭金に充て、中古マンションを購入。40代半ばでの購入だったため返済期間を25年に設定。住宅ローンや管理費や修繕積立金など、住居コストで月17万円ほどが消えていきました。
しかし、そんな中でも「娘にはできる限りのことをやってあげたい」――それが夫婦共通の想いでした。可愛い洋服、レジャーランドでの思い出作り、塾通いや習い事など教育費にも惜しみなく投資。さらには、私立中学に入学させることにしました。
当時のAさんの年収は約850万円。すでに定年もチラつく年齢でしたが、「退職金もあるし、どうにかなるだろう」と高をくくっていたのです。
ところが、数年後。60歳で定年した後は嘱託社員に切り替わり、Aさんの年収は400万円ほどに。これまでの生活水準を維持するのは、明らかに難しくなりました。
退職金1,800万円は、住宅ローンの繰上げ返済に充て、半分以上が消えました。残りも生活費や教育費として切り崩し、老後資金として残せる余裕はほとんどなかったのです。
そして65歳を迎え、年金受給者となったAさん。年金額は月あたり17万円ほど。妻のパート収入を合わせれば月30万円程度ですが、娘はまだ大学生。家計に余裕は一切ありません。
働き続けるしか選択肢がないAさんは、時給1,320円のアルバイトで週5日勤務。営業サポートの仕事を続けています。同年代の仲間が夫婦で旅行や趣味を楽しむ姿を見ても、「自分には縁のないこと。80歳まで働く覚悟ですよ」と苦笑いを浮かべます。
Aさんをさらに寂しくさせるのが娘の変化。高校生になってから反抗期を迎え、話しかけても返事がないことが増えたといいます。
「娘は妻とは仲良くしていますし、年頃になるとそんなものなのかもしれません。でも、普通の父親以上に愛情を注いできた自負があるので、報われない気持ちです」
