前回は、地盤沈下に悩む工場に求められる修正工法について取り上げました。今回は、沈下した工場の建物基礎を修正する「アップコン工法」について見ていきます。

ウレタン樹脂が発泡する力で、沈んだ床を持ち上げる

建物を持つ人、管理する人、使う人が抱く要望のすべてに応えられる沈下修正工法——あなたの会社が最もトクをする修正工法として、「アップコン工法」をご紹介しましょう。「アップコン」とは、沈下した土間コンクリートを修正する、つまり、「コンクリートを上げる(up+con)」という意味の造語です。

 

私がこの工法を実用化してから約13年。すでに1230件の実績を重ねてきました。

 

この工法の特徴を一言でいうと、「沈んでしまった床下に特殊な硬質発泡ウレタン樹脂を注入し、その発泡圧力で土間コンクリートを押し上げてもとのレベルに戻す」ということになります。土間コンクリート上の床面に1円玉よりも小さな孔を開け、ウレタン樹脂のもとになる液体を、沈下した床の下に機械を使って注入していくのです。

 

注入された液体は、地盤に染み込んでコンクリート下の層にまで入り込みます。そして、床と地盤の間に空隙ができてしまっている場合にはその空隙を埋めるのですが、すぐに発泡・膨張して、その圧力でコンクリートを持ち上げながら固まっていきます。

 

【図表1 アップコン工法の仕組み】

 

【図表2 土間コンクリート下で発泡したウレタン樹脂】

 

浴室のマットや靴底などにも使われる素材を利用

ウレタンとは、ポリオールとイソシアネートという2種の薬液を混ぜ合わせ、その化学反応によってつくられる合成樹脂(プラスチック)の一種です。私たちの日常生活でも、あちこちで使われています。

 

主な用途をあげてみましょう。

 

まずは家の中。台所で使われる食器洗いのスポンジや浴室のマット。マットレス、クッションの中身。畳やふすまの芯としても使われています。あるいは、家電製品の一部としては、換気扇のフィルターや冷蔵庫の断熱材にも使われます。家そのものでは、壁の間に詰める断熱材がメジャーな用途です。

 

衣類としては、靴底や中敷、服の中に仕込まれるパッド類。家の外では、自動車の多くの樹脂部品の材料として欠かせないものですし、自動販売機や冷凍コンテナの断熱材としても使われます。スポーツ用品では、ゴルフボールやスキー板の芯、テニスラケットなど。テニスコートの舗装に使われることもあります。

 

こうしてみると、一言で「ウレタン」といっても、硬いものから柔らかいものまで、また柔らかいものでもスポンジ状のものやゴム状のものなど、ずいぶんいろいろな種類があることがおわかりいただけるでしょう。

建物でも十分支えられる「硬質発泡ウレタン樹脂」

この中で沈下修正に使用されているのは、「硬質発泡ウレタン樹脂」と呼ばれる種類です。このウレタンは、薬液に発泡剤が加えられていて、2つの薬液を混ぜ合わせると、クリーム状に変わり、盛んに細かい泡を吹き上げ膨張しながら固まっていきます。これが、硬質発泡ウレタンの「発泡」の意味です。この発泡で体積がどんどん膨らむため、その圧力で床を押し上げていくのです。

 

膨張率は、床下は地盤と床の間で圧力がかかっているので一概には言えませんが、圧力がかかっていない状態では、標準のウレタン樹脂で約30倍。同じ発泡ウレタンでも、住宅の断熱などに使うものでは100倍程度に膨らみますから、それに比べると“硬く締まっている”素材ということができると思います。「発泡」とはいっても、決して台所のスポンジのようにフワフワした素材ではありません。

 

そして、「硬質」というとおり、硬い。ですから、建物のように重いものも支えることができます。単純計算で、1平方メートル当たり、最低でも37トンもの重さを支えることができますから、床だけでなく、その上に重い荷物や機械などが載ったままでも充分に対応できる強さです。

 

しかしそれでも、固まったあとの体積の大部分が炭酸ガスですから、仮に同じだけの体積をコンクリートで充填するのと比べると、重さは約40分の1に過ぎません。

本連載は、2016年11月25日刊行の書籍『改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9割』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9 割

改訂版 不良品が多い工場の原因は地盤が9 割

松藤 展和

幻冬舎メディアコンサルティング

4年前出版し関係者の間で話題沸騰したあの書籍が、「傾いた床」による様々なリスクを追加収録し、 【改訂版】としてパワーアップして帰ってきた! たった0.6度の床の傾きで、業務も傾く! 日本の建物の9割が地盤に起因…

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