「現金だけで2,000万はあると思っていた」
「いや、さすがに親父がそこまで使い果たしているなんて、信じられなかったんですよ」
そう語るのは、都内で働く50歳の会社員・松本幸司さん(仮名)。大手企業の中間管理職として年収は650万円程度あり、2人の子を育てながら実家とは車で1時間ほどの距離に暮らしています。
父・茂さん(享年86)の葬儀を終えた数週間後、実家で開かれた遺産分割協議で、思わぬ現実を突きつけられました。
「兄さんには悪いけど、通帳を見てよ。ほとんど残ってないの…」
そう切り出したのは、実家で両親と暮らしてきた58歳の妹・典子さん(仮名)でした。通帳の残高は、わずか87万円。不動産はあるものの、住宅ローンが完済されたのは父の死の5年前。さらに、介護用のリフォームで組んだローンがまだ残っていることも判明します。
「いやいや、うちは地味な暮らしをしていたし、親父は浪費する人間じゃなかった。退職金ももらっていたし、貯金は2,000万くらいあると思っていたんですよ」
幸司さんは、妹の話をにわかに信じられなかったと振り返ります。
しかし典子さんは、父が要介護3と認定された6年前からの介護費用や、入退院を繰り返した医療費、訪問診療の費用などを細かく記録していました。母も7年前に亡くなっており、その際の入院費・葬儀費用もすべて通帳から出金していたことが分かります。
「お父さんの年金でやりくりしながら、足りない分は貯金から出していたの。毎月5万円ずつでも、5年で300万円。大きな手術も2回あったし、結局ほとんど残らなかったのよ」
幸司さんは、通帳や領収書、介護記録を見せられながら、ようやく現実を受け入れました。
