「自分のことすら余裕がないのに…」父の異変に気づいた日
東京都在住の53歳女性・智子さん(仮名)は、地方に一人暮らしをする父(84歳)を毎月のように訪ねていました。母を数年前に亡くし、身寄りは智子さんのみ。数年前から少しずつ「忘れっぽくなってきた」と感じていた父に、ある日、明らかな異変が現れました。
「銀行の通帳を見て、『これ、どこの口座だっけ?』って言い出したんです。昔から几帳面な人だったので、ゾッとしました」
その後も、薬の飲み忘れやガスの消し忘れなど、心配な場面が増えていき、かかりつけ医を通じて受けた診断は「認知症」でした。
『令和4年版 高齢社会白書』によれば、介護が必要になる主な理由として、認知症が18.1%と最多で、特に女性では19.9%と高くなっています。
一方で、いざ介護が必要となっても、すぐに「誰かが助けてくれる」状況にあるとは限りません。
厚生労働省の『2022年 国民生活基礎調査の概況』によれば、要介護者と「同居」しているケースが全体の45.9%と最も多く、次いで「別居の家族等」が11.8%となっています。主な介護者としては、「被介護者の配偶者」が22.9%、「子」が16.2%、「事業者」15.7%と続き、いまだに介護の多くが家族によって担われている実態がうかがえます。
智子さんも例外ではありませんでした。
「私は都内でパート勤務。子どもも大学生で、家計も時間もギリギリ。でも、父を一人にしておくわけにはいかなくて…」
やむなくパートを週2日に減らし、2週間に1度のペースで地方の実家へ。「認知症でも一人暮らしできる」と信じて介護サービスを頼みましたが、それも長くは続きませんでした。
