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「DIYも楽しそうだし、野菜づくりもできると思ったんです」
都内で会社勤めをしていた川田啓一さん(仮名・66歳)は、退職金と年金を頼りに、60代前半で妻の雅子さん(仮名・63歳)と一緒に地方移住を決意しました。
「若いころから“いつかは田舎で暮らしたい”という夢がありました。古民家をリノベーションして、DIYしたり、畑で野菜を育てたり。都会では味わえないスローライフを想像していたんです」(啓一さん)
啓一さん夫妻が選んだのは、長野県の山あいにある人口1,000人に満たない集落。築90年の古民家を1,100万円で購入し、残りの資金でリフォームを行いました。
しかし、理想の生活は、早々に「現実の壁」にぶつかります。
「DIYも野菜づくりも楽しいのは最初だけでした。実際には、草刈り、雪かき、雨漏りの修繕に追われる毎日で……。体力の衰えも感じてきて、しんどかったですね」(啓一さん)
家の周囲は自然に囲まれた広い敷地。景色は申し分ないものの、夏は雑草との戦い、冬は凍結や雪の重みで雨樋や屋根が傷み、修繕費も嵩みました。
「近所に頼れる大工さんもいなくて、“自分でなんとかする”しかないんです。でも60代半ばには、正直きつい作業ばかりでした」(雅子さん)
また、車がなければ病院にも買い物にも行けず、日常の「ちょっとしたこと」に不安がつきまとうようになっていきました。
もうひとつ大きな誤算だったのが、地域の人間関係です。
「最初はよくしてもらえたんです。でも、慣れない“自治会活動”や“地域のしきたり”があまりに多くて……。何かと“相談なく決まっている”という感じでした」(雅子さん)
例えば、「回覧板の順番」「当番制の清掃活動」「行事の出欠」など、ルールが明文化されていないため、移住者にとっては“見えない圧力”になることも。
「何かを断ると、妙な空気になる。参加しても、名前を覚えてもらえない。『移住者はすぐ戻るから』と、どこか距離を置かれているようでした」
地域によっては、移住者の定着率が低いことから、あえて積極的に関わらない住民もいます。特に高齢化が進む集落では、新参者との関係構築が難航することも珍しくありません。
