念願の「信州への移住」を実現、胸躍らせていたが……
夫のリタイアを機に、長年暮らした東京の生活を離れ、夫とともに信州の小さな村へ移住することになった佳子さん(仮名・66歳)。「自然に囲まれて、静かに老後を過ごす」という夢は、何年も前から夫婦の中で描かれていました。
それぞれ東京と横浜出身の都会っ子夫婦。人混み、騒音、排気ガス、せわしなさ……。そうしたものから逃れ、鳥のさえずりや澄んだ空気の中で過ごす日々を想像して、佳子さんの心は躍っていました。
夫婦の年金は月24万円。また当時、手元にあった老後資金は1,500万円ほどです。田舎暮らしをするにあたって、東京のマンションは売却し現金化。移住の候補地を回り、畑付きの家を購入しました。こうして、半年以上準備に時間をかけて、とうとう夢の田舎暮らしが始まりました。
しかし残念ながら、理想と現実は違ったのです。
予想はしていたものの…いざ移り住んで実感する不便さ
田舎暮らしの不便さは覚悟しているつもりでした。しかし根っからの都会育ちの二人には、その想像はあまりに甘いものでした。
夜遅くまで開いている量販店やドラッグストアはなく、コンビニエンスストアやファストフード店も車で30分以上。最初は「なくても平気」と思っていたのに、実際にそれがない生活になると、予想以上に恋しくなってしまいます。
さらに、車は必須。夫婦は軽自動車を2台購入しましたが、維持費やガソリン代、保険料がのしかかります。お酒が好きな夫婦でしたが、車で出かける以上「飲んだら帰れない」。都会なら電車で気軽に居酒屋に立ち寄れたのに、田舎ではどちらかが我慢するしかありません。
こうした小さな不便や出費が積み重なり、次第にストレスとなって心に影を落としました。
自然は美しいが、想像以上に厳しい気候に悪戦苦闘
佳子さんが最も楽しみにしていたのは「東京の蒸し暑さから逃れ、涼しい空気を味わうこと」でした。けれど実際に暮らしてみると、気候の厳しさに直面します。
「今日は晴れているな」と思った矢先に、突然の夕立や雷雨。洗濯物を干したら、1時間後にはびしょ濡れ。天気の変わりやすさに、次第に苛々することも増えていきました。
さらに冬――。移住は秋口でしたが、初めて迎えた信州の冬は想像を超える厳しさでした。氷点下が当たり前の生活。朝起きてまずやるのはストーブの点火。外に出れば足元は凍結し、灯油代は月に数万円単位で膨らみ、生活費を圧迫しました。
「寒さには強いから大丈夫」と高を括っていた佳子さんでしたが、東京の冬とは次元が違う現実に愕然としたのです。
とはいえ、これだけなら続けられたかもしれません。しかし、結果として夫婦は移住から撤退。その決定打となったのは、“隣に住む親切なおばあさん”の存在でした。
