今回は、海外企業と「継続的契約」を結ぶ際の留意点を見ていきます。※本連載は、日本・ニューヨーク・香港という3つの地域で弁護士資格を持ち、中小企業の海外展開について豊富な支援実績を持つ国際弁護士、絹川恭久氏の著書、『国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと』(レクシスネクシス・ジャパン)の中から一部を抜粋し、法務部や顧問弁護士を擁しない中小企業経営層に対して、「海外進出時の基礎的な法知識」を分かりやすく解説します。

タイミングを逸してしまった結果・・・

連載第9回、第10回で紹介した事例では、JF社、SF社どちらも、法律的には損害金や未収金が請求可能ですが、相手が支払拒否・不払で逃げた場合、最後に頼る手段は裁判か仲裁しかありません。それらは争いの金額があまり大きくない場合には有効でないことはすでに述べました。

 

JF社の事例(その4)では、前のオーダーのコート返品対応の損害金を、別オーダーの春物商品の70%の残代金で相殺する機会がせっかくありながら、その機会を失いました。

 

結局別オーダー品の顧客への納入期限が迫っており、B工場から納品してもらわないことには顧客との取引が致命的になる、というJF社として背に腹を代えられない状況だったために、損害金と代金70%を相殺する主張を貫くことができなかったのが敗因です。

 

SF社も相手方に有利な代金支払方法を許したままであったため、景気が悪くなった後で回収の努力をするも、結局は未収金が残ってしまいました。

 

SF社は、たとえば中国の景気が良く、E社が発注をどんどんかけてくるときに商品の支払いを前払いにしておけば、後々未収の売掛金回収に苦労することはなかったはずです。E社の売上げが先細って、商品をあまり必要としなくなったときに回収努力を開始したため、結果として後の祭りになってしまいました。

自社に有利になるよう、機を見て条件の変更を交渉

これらを教訓とすると、次のようなことが言えるのではないでしょうか。

 

まず、継続的な契約においては、一回の取引で損害が出ても、次のオーダーで代金額や取引額を相殺などで調節することで、前回の取引の損害や代金未納の調整をすることができます。一見これは確かに便利ではあります。

 

しかし、そのような調整については、モノの買い手が商品をどの程度強く、どの程度急いで必要としているか、という事情が交渉力にかなり影響してきます。

 

買い手が商品をどうしても必要としているのであれば、売り手が無理を言っても買い手はお金を払おうとします。逆に、売行きが悪くなってあまり必要ではなくなった商品について、買い手は支払いを後回しにしようとします。

 

また、商品の需要の強弱には、景気とか季節といった時期的な変動があります。SF社の事例に関して言えば、売上げが好調で商品が売れている好景気の時であれば、E社は支払いを前払いにしてでも商品の発注をしたかもしれません。

 

取引の当初はSF社が下手に出て後払いにしていたとしても、景気がいい時に「今後は前月の支払いがなければ新規の発注品の納品はしない」とか、「以後は代金50%前払いにする」というルールをSF社から一方的に要求していればよかったのです。

 

実際、商品が飛ぶように売れている時期であれば、そのような言い分が通った可能性はかなり高いでしょう。

 

ここでSF社の事例から得られた教訓は、従来そうだったからという理由で納品後45日払い、という約束にいつまでもこだわる必要はなかった、ということです。取引をめぐる環境(相手側の商品の需要の強さ)が自分側にとって有利か不利か、を常に見極めることが重要です。

 

もしも、自分側が有利な時があれば、そのタイミングに、「以後は代金前払いでなければ取引しない」などと、自社の有利になるように取引条件の変更を要求することは、ルール違反でも何でもありません。自分の交渉力が強いタイミングに、少しでも自分側の有利なように取引条件を変更しておく、という打算や機敏な対応も時には必要です。

 

この話は次回に続きます。

国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと

国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと

絹川 恭久

レクシスネクシス・ジャパン

中小企業が海外展開を進めようとするとき、難関となるのは「進出しようとする対象国の現地法に基づいた、自社事業の法的整備」、そして「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」です。しかし、国内にある公的な海外展開支援機…

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