今回は、海外企業と「継続的契約」を結ぶ際に念頭に置くべき点を紹介します。※本連載は、日本・ニューヨーク・香港という3つの地域で弁護士資格を持ち、中小企業の海外展開について豊富な支援実績を持つ国際弁護士、絹川恭久氏の著書、『国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと』(レクシスネクシス・ジャパン)の中から一部を抜粋し、法務部や顧問弁護士を擁しない中小企業経営層に対して、「海外進出時の基礎的な法知識」を分かりやすく解説します。

一定金額の取引保証金をあらかじめ預けさせておく手も

単発の契約にも共通する話ですが、継続的契約においては、担保を取ることで自社の交渉上の優位を確保することも可能です。

 

たとえば商品の販売であれば、「代金の支払いがあるまでは商品の所有権を留保する」としておき、相手方に支払いの不履行があった場合に商品を引き上げる、という所有権留保も一つの担保ではあります。また、経営者個人に会社の債務を保証させる、という担保の取り方もあります。

 

しかし、海外の相手との取引では、所有権留保のような担保をつけたり、経営者の個人保証を取ったりしても、それを法的に実行することには相当な困難が伴います。なぜなら、担保実行や保証債務履行請求のための訴訟費用などそれを実行するためのコストがかかりすぎて、あまり実際的ではないからです。

 

実際に日本の金融機関が海外にでても、海外現地法人から有効な担保をとることができないため、日系企業以外にビジネス展開できないという現実があります。

 

これは、海外では必ずしも日本国内のように不動産担保実行制度が簡便にできていないため、土地を担保に融資することができないからです。土地担保至上主義に慣れすぎた日系金融機関では、海外現地企業の信用力把握に限界があるのです。

 

ですから、継続的な契約をする場合に取引相手から担保を得る方法としては、やはり第一に、「現金」の形をとるべきです

 

たとえば、取引開始に先立ち、一定金額のデポジット(取引保証金)をあらかじめ預けさせておく方法があります。取引継続中に何らかの損害が出た場合は、デポジットから差し引く、という形で処理することですみますから、担保を実行するコストがかかりません。そのような考え方からすると代金先払いとすることも、一種の担保といえるでしょう。

 

いずれにしても、基本的な考え方として、売り手としてはお金をなるべく早めに受け取っておくこと、買い手としてはお金をなるべく遅めに支払うこと、というのは一種の担保のような効果があることをよくよく覚えておいてください。

継続的契約では「4つの事項」を念頭に置く

継続的契約についての本節をまとめると、継続的契約においては次のことを念頭において、取引するべきである、ということです。

 

①対等な相手方との契約関係において、信頼関係というものはもろいものだから、一つの相手方に依存しすぎてはいけない。

 

②交渉上の有利不利は、対象となる商材を相手方がどれだけ必要としているか(需要の強弱)による。時期的な需要の強弱の変化には常に気をつけておく。

 

③相手方が自分にとって取引上重要であることを示唆することはかえって付け込まれるリスクがある、といったように自らの常識にも疑いを持っておく。

 

④取引保証金や代金の前払いは一種の担保のような効果を持ち、担保を取ることで交渉上優位に立つことができる。

 

ということです。

 

これまで紹介した事例で見てきたように、契約関係というのは、基本的に対等な相手方との取引です。親会社子会社同士と違って資本関係がないので相手に対する強力な支配・被支配関係はありません。

 

しかし、逆の見方をすれば契約を打ち切りさえすれば、株式売却や会社の清算などすることなく手を引くことができます。つまり、撤退するのにとても便利な形態なのです。

 

契約関係、資本関係どちらがいいかは事情によりますが、上記のような関連から、契約のみによる緩やかな取引関係と、合弁会社のような出資を通じた強固な取引関係それぞれの基本的なメリットデメリットは理解しておいたほうがいいでしょう。

国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと

国際弁護士が教える海外進出 やっていいこと、ダメなこと

絹川 恭久

レクシスネクシス・ジャパン

中小企業が海外展開を進めようとするとき、難関となるのは「進出しようとする対象国の現地法に基づいた、自社事業の法的整備」、そして「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」です。しかし、国内にある公的な海外展開支援機…

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