長男が次男に140億円訴訟、ロッテ・重光ファミリー…骨肉の争いは「親の認知症」を制した者が勝つ。財閥に学ぶ「相続の切り札」【国際司法書士が解説】

長男が次男に140億円訴訟、ロッテ・重光ファミリー…骨肉の争いは「親の認知症」を制した者が勝つ。財閥に学ぶ「相続の切り札」【国際司法書士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

相続争いのトレンドが変わった――。かつては遺言書の有効性を争うのが定番だったが、いまは親の判断能力を逆手にとる「成年後見制度」が、経営権を掌握するための切り札の一つになりつつある。日本でも話題になった韓国ドラマ『財閥家の末息子 ~Reborn Rich~』(2022年、JTBC)などで描かれる世界は、より巧妙な形で現実化しているのだ。ロッテグループで起きた骨肉の争いは、その象徴に過ぎない。日本と韓国の相続手続きを専門に手掛ける司法書士の中村圭吾氏が、相続の実態を解説していく。

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財閥で相次ぐ事例

このように、財閥・大企業の経営権をめぐり、後見の申立てが相続争いの前哨戦として使われる例が相次いでいる。

 

韓国の自動車用タイヤ市場No.1のハンコック&カンパニー社(1941年創業、2012年上場)では、創業者であるチョ・ヤンレ名誉会長が2020年6月、持ち株会社の株式全部を二男のチョ・ヒョンボム現会長(当時、社長)に売却。これに対し、長女のチョ・ヒギョン氏が「父の決定は、健康な精神状態で、自発的になされたものではない」として、限定後見の開始を申し立てた。

 

裁判所は2022年4月、この申立てを棄却したが、長女側がこれを受け入れずに抗告。結局、争いは最高裁判所までもつれ込み、2024年8月、最高裁判所が棄却するまで、4年以上の歳月を要することとなった。

 

ほかにも、LGグループ創業者の三男が創業した給食大手アワーホーム社(2000年にLGグループ系列会社から独立)では、創業者ク・ジャハク会長の長男ク・ボンソン前会長が、両親に対する後見開始を申し立てたケースなどがある。

「親族」の後見人が本人の財産を使い込んでしまうことも

韓国の法曹関係者が利用する法曹専門ニュースサイト「法律新聞」によると「相続紛争で成年後見事件は、“定番メニュー”として登場しつつある」という。

 

同サイトによると、後見制度が始まった2013年には336件だった申請件数が、2025年には、2,827件に到達。10年間で8.4倍に急増した(2024年4月20日付)。

 

日本では、裁判所が選任する後見人のうち約8割が弁護士や司法書士などの専門家であるのに対し、韓国では親族が後見人に就任するケースが多いのが特徴。導入初年の2013年当時は、親族が91%に対し、専門家は2.5%、徐々に専門家が増えているとはいえ、現在も8割程度のケースで、親族が後見人に選ばれているという。

 

日本でも一時期問題になったが、親族の後見人が本人の財産を使い込んでしまう事件は韓国でも起こっている。2017年に弟の口座に払い込まれている交通事故の保険金を用いて、不動産を購入した男性を刑事処分の対象とする判決が出された。このような親族後見人による使い込みを防止するために、専門家の後見人の増加や信託の利用などが検討されている。

 

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