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実家を長男に遺したいが、折り合いの悪い長女がいて…
山田さん(仮名)は77歳の男性です。8年前に妻を亡くしましたが、その後、隣の市で別居をしていた長男家族が実家に戻り、いまは3世代で同居しています。穏やかな毎日に不満はありませんが、ひとつだけ気がかりなことがあります。
「自分が死んでも、長男家族がこの家に住み続けられるようにしたいんです」
山田さんはいま、遺言の作成を検討しています。
「妻を亡くしてすぐは、食事や日常生活をひとりでこなしていました。でも、不注意で転んでしまって。大きなケガはなかったのですが、長男とお嫁さんがひどく心配して、同居を申し出てくれました」
長男家族との生活を喜ぶ一方、自宅は築40年を超える築古です。また、長男夫婦と中学生の孫2人の5人が生活するには手狭な間取りでした。そこで山田さんは、同居に先立ち、約1,800万円の自己資金で実家の増改築を行うことを検討し、長男夫婦とも話し合いを重ねていました。
しかし、いったん増改築を断念することに。
「私には、同居する長男と、家を出ている長女の2人の子どもがいます。長女も自分の家庭を築いて、結婚当初から家を離れているのですが、昔から長男と折り合いが悪いのです」
きょうだい間の不仲について、山田さんは以前から把握していましたが、長男と同居することになったと長女に報告したとき、不満げな表情を見せたのを見逃しませんでした。また、長女の夫ははっきりとものをいうタイプで、なにかと口を出してくることも予想されました。
「もし、同居のためのリフォーム費用を私の預貯金から出せば、それがきっかけとなり、2人の間に決定的な亀裂が入るでしょう…」
そのため、今回はリフォーム費用をすべて長男が負担し、そのうえで贈与とみなされないよう、建物を山田さんと長男の共有名義とする方法をとったのです。
「特定財産承継遺言」を作成し、自宅を遺産分割の対象外に
山田さんがもし生前対策をせずに亡くなれば、自宅建物と土地の山田さんの持ち分は遺産分割の対象となります。その結果、土地と建物がきょうだい2人の共有名義になれば、長女は実家に住む長男に、持分に応じた地代や家賃相当分の金銭の支払いを請求できます。また、換価分割となれば、長男家族は現在の住まいを退去することになるかもしれません。
しばしばみられるのが、実家近くの親の所有地に、推定相続人である子どもが自分名義の家を建てて家族で住み、親の世話をするケースです。この場合も、親の相続が発生すると建物の敷地は遺産分割の対象となり、山田さんと同様の懸念が生じます。
山田さんは長男と長女が遺産を巡って争うことのないよう、元気なうちに生前対策を講じておくべきだといえます。具体的には「実家の土地と建物の持分は長男に相続させる」といった内容の「特定財産承継遺言」を作成し、遺言のなかで遺言執行者を指定しておくことです。
特定財産承継遺言とは、遺産の分割方法の指定として、特定の財産を共同相続人の1人または数人に承継させる旨の遺言をいいます(民法第1014条2項)。
特定財産承継遺言が作成されていれば、相続させる特定の財産の所有権は当該相続人にただちに帰属することになり、その特定遺産(本事例の場合、実家の土地や建物の共有持分)は遺産分割の対象にはなりません。
また、有効な遺言書があったとしても、不満を持つ相続人が非協力的な態度を取り、手続きが進まないケースもあります。しかし、遺言で「遺言執行者」を指定しておけば、相続手続きをスムーズに進めることができるのです。
遺言執行者とは、相続人を代表して、遺言の内容を実現するために必要な一切の手続きをする人のことです。遺言執行者は、相続手続きを単独で行う義務と権限を持っており(民法第1012条①)、相続人でも遺言の執行を妨げることはできません(民法第1013条①)。
遺言執行者になれる条件は「未成年者および破産者以外の人(民法第1009条)」で、法人でも、相続人のうちの1人でも、専門家(税理士や行政書士など)でも、遺言執行者に指定することはできます。
ただし、相続人のうちの1人が遺言執行者に指定されて相続手続きをする場合、ほかの相続人から公正さを疑われたり、金融機関によっては預貯金の解約や名義変更に応じてもらえなかったりする場合もあるため注意が必要です。
特定財産承継遺言作成の注意点
特定財産承継遺言の作成に当たっては、4つの注意点があります。
(1)相続人の「遺留分」への配慮
遺留分とは、相続人に保証されている最低限の遺産の取得割合のことです。遺留分を侵害する内容の遺言でも法律上は有効なものとして扱われますが、遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることで、遺留分侵害額に相当する金銭を取り戻すことができます。
ここでご紹介した山田さんの場合も、万一遺留分侵害が想定されるのであれば、長男は長女への金銭支払いを想定しておくか、山田さんが生前に生命保険に入っておくといった準備が必要です。
(2)形式不備による遺言書の無効リスクに注意
特定財産承継遺言による遺言書を作成する場合、主に「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかが選択されます。自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文を自筆で作成し、費用も掛かりませんが、形式面の不備によって無効になるリスクがあります。
公正証書遺言は、作成費用はかかりますが、2人以上の証人が立ち会ったうえで公証役場の公証人が作成するため、形式面の不備による無効リスクはほぼありません。したがって、山田さんの場合も、公正証書遺言が安心です。
(3)代襲相続も想定しておく
特定財産承継遺言を作成したあとに長男が遺言者より先に死亡した場合、長男の子(遺言者の孫)が、長男に代わって特定財産を代襲相続できるかという問題があります。
判例では「長男の子やその他の者に相続させる旨の意思など特段の事情がない限り、代襲相続できない」としています。そうなれば、特定財産は代襲相続されず、遺産分割の対象となってしまいます。
そのリスクを排除するには、遺言書のなかに、「遺言者〇〇(山田さん)の死亡以前に受益の相続人〇〇(長男)が死亡したときは、その代襲相続人〇〇(孫)に相続させる」とする一文を記載しておきます。
(4)特定財産相続後の登記を迅速に完了させる
特定財産承継遺言がある場合、特定財産の受益相続人は単独で相続登記をすることができますが、その承継した権利が自身の法定相続分を超える場合、登記の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないとされています。
山田さんの場合、長女が長男に無断で法定相続分での相続登記(単独でできます)をしたあと、第三者に持分を譲渡してしまったら、長男は第三者に対して所有権を主張できないということになります。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
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