あなたとの不動産の共有がストレスです…姉の申し出に〈土地の持ち分〉を買い取りホクホクの50代男性、積年のマイホーム建築の夢が潰えた「考えれば当然」の事情

あなたとの不動産の共有がストレスです…姉の申し出に〈土地の持ち分〉を買い取りホクホクの50代男性、積年のマイホーム建築の夢が潰えた「考えれば当然」の事情
(※写真はイメージです/PIXTA)

親から相続した土地の使い道に困っている人は少なくありません。売却をしようにも、「共有名義」などで権利関係が複雑な場合、時間がかかったりトラブルに発展するケースも…。相続問題や不動産トラブルにくわしい行政書士・平田康人氏が、実践的な視点から解説・アドバイスします。

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貸し駐車場の共有、姉が「すごくストレス、解消したい」と…

横浜市の賃貸マンションに暮らす井上吾郎さん(仮名・56歳)は、都内の中堅企業に勤務するサラリーマンです。吾郎さんは7年前に父が亡くなったことで、自宅よりかなり遠方にある約80坪の月極駐車場を、姉の由美子さん(仮名・58歳)と共同相続しました。

 

残念ながら、駐車場の稼働率は5割以下と厳しい状況で、固定資産税や清掃費といったランニングコストだけがかさみます。今後の使い道に頭を悩ませた吾郎さんは、姉に相談することにしました。

 

「このままじゃ稼働率も上がらない…。周囲に事業所や専門店も多くあることだし、いっそのこと時間貸し駐車場にしない?」

 

「好きにしたらいいよ。それより、私の共有持分を買い取ってもらえない?」

 

姉の意外な提案に驚いた吾郎さんは、理由を尋ねました。

 

「不動産の共有すごくストレスなの。もしこのまま私が死んだら、うちの子たち(吾郎さんの甥姪)に共有持分が移るわけでしょ。だから、いまのうちに解消してスッキリさせたいの」

 

姉の提案に喜んだ吾郎さんは、早速姉から共有持分(1/2)を買い取って単独所有とし、時間貸し駐車場として運営をスタートさせました。

「定年退職したら、ここに家を建てて…♪」

実は、吾郎さんが喜んで持ち分を買い取ったのには、別の理由もありました。吾郎さんはいわゆる転勤族で、マイホームに憧れつつも、賃貸住まいを続けてきたのです。「いまは駐車場経営をし、定年退職したらここに家を建て、妻とゆっくり暮らしたい」という希望があったのでした。

 

しかし、夢に胸を膨らませる吾郎さんに、妻から極めて冷静で現実的なコメントがありました。

 

「マイホームもいいけど、老後資金や子どもたちへの相続、どうなるのかしら?」

 

吾郎さんには、すでに大学を卒業し、独立・結婚している2人の息子がいます。大手企業に就職した長男は、吾郎さんと同じ転勤族です。同じく大手企業に就職した二男は、配偶者の両親が建ててくれた都心の二世帯住宅で同居しており、将来もそこに住み続けたいと話しています。

 

つまり、2人とも駐車場経営をやめて建て替えた家に移住する可能性は低いのです。

 

「お義姉さんから買い取った土地に、大金を使って家を建てて、本当に大丈夫なのかしら?」

 

吾郎さんは、妻と2人で問題点を整理しました。

 

●土地は単独名義になったが、せっかく家を建てても、長男や二男が暮らす可能性は低い。

 

●この土地に家を建てると、財産の大半は不動産となってしまう。分割がむずかしいため、共同相続する可能性が高い。

 

●将来、吾郎さん夫妻が施設に入ることになれば、入所資金を捻出するために、土地建物を売却することになるかもしれない。その時点で吾郎さんが認知症になっていないとも限らない。

 

「お義姉さんはいい人だけど、不動産の共有は面倒だったでしょう? あの子たちに同じ思いをさせていいの? そもそも、私たちの老後資金は大丈夫なのかしら?」

 

吾郎さんは熟考した結果、自分の単独名義となった土地に家を建てることはせず、いずれタイミングを見て売却することにしました。売却したお金は施設入所を見据えた夫婦の老後資金とし、もし残った場合は子どもたちに均等に相続させます。

 

「近いうちあの子たちに声をかけて、私たちの老後計画を話しましょう」

 

「ああ、マイホームの夢、叶えられなかったな…。チクショウ、もし生まれ変わったら、そのときはきっと…!」

「分けにくい資産」を「分けやすい資産」に組み換える

分けにくい資産は、生前に「分けやすい資産」に組み換えておくことが大切です。

 

資産の組み換えとは、現在所有している資産を別の資産に変えて保有し直すことをいいます。資産の組み換えをする目的には、①保有資産の収益性向上、②相続税対策、③納税資金・遺産分割対策などがあります。

 

例えば、①保有資産の収益性向上では、古くなった既存の収益アパートを新しく建て替えたり、新しい収益不動産に買い替えたりする場合です。

 

②相続税対策では、現金を相続税評価が低い土地や建物に組み換えたり、「小規模宅地等の特例」を検討したりするような場合があります。

 

③納税資金・遺産分割対策では、売却に時間がかかりそうな不動産や分けにくい不動産を売却し、現金に組み換えておくことで、納税資金や遺産分割の準備にもなり、相続人の負担が軽減されます。また、別の遺産分割対策として、1つの不動産を売却した資金で、複数の不動産に買い替えることもできます。

 

本事例の場合、仮に吾郎さんが駐車場を売却した資金で区分所有建物を2つ購入して賃貸し、賃料収入を得ながらも自身の相続が発生したら、それぞれを長男と二男に相続させることも可能です。

不動産売却の主な方法、「一般売買」と「競争入札」

資産組み換えで不動産を売却するのであれば、売主の心情として「できるだけ高く、納得できる金額」で売りたいと思うのが通常です。ただし、不動産売却に際しては、「一般売買(相対取引)」と「競争入札(オークション取引)」があることに留意する必要があります。

 

一般売買(相対取引)とは、具体的な意思表示があった買手から順に相対で交渉し、合意すれば成約となるもので、ほとんどの不動産取引がこの形態です。

 

一方、競争入札(オークション取引)とは、入札期日まで複数の買手から買い希望(入札書)を募り、入札があった複数の買い希望のなかから、売主が希望する売却条件に合致した入札者と交渉し、合意すれば成約となります。

 

逆に、希望条件に満たない場合(すべての入札金額が売却希望価格に届いていないなど)は売却を取り止めとするものです。

一般売買と競争入札、それぞれのメリット・デメリット

一般売買(相対取引)と競争入札(オークション取引)にはそれぞれメリット・デメリットがあるため、よく理解のうえ、適したほうを選択する必要があります。それぞれのメリット・デメリットは、次のとおりです。

 

◆一般売却(相対取引)

〈メリット〉

・早く売却できるため、換金を急ぐ方には向いている

・全国すべての不動産業者で対応可能

・どんな不動産(規模、エリア、市場性など)でも対象となる

 

〈デメリット〉

・意思表示の早い順で成約するため、成約相手の金額が高いとは限らない

・買手から購入に際し、いろいろ条件を付加されることがある

・物件情報の囲い込みをする業者がいる

 

◆競争入札(オークション取引)

〈メリット〉

・売却時点において、一番高値で購入する買手を探すことができる

・市場競争原理で結果が決まるため、売却過程における透明性や納得性が高い

・入札要綱(入札ルール)で、あらかじめ売主に有利な売却条件を設定できる

 

〈デメリット〉

・一般売買(相対取引)に比べて、成約まで時間がかかる

・競争入札(オークション取引)の対象不動産は限られており、どんな不動産でも競争入札(オークション取引)で売却できるわけではない

・競争入札(オークション取引)実績のある業者は限られており、すべての不動産業者が競争入札(オークション取引)を取り扱えるわけではない

 

競争入札(オークション取引)の対象不動産は、一般的に「地積50坪以上、間口8m以上、前面道路:幅員5m以上の公道、建蔽率60%以上、容積率200%以上」の土地(古家付きを含む)であり、入札対象者は不動産開発業者に限られます。

不動産会社の「囲い込み」に注意

競争入札(オークション取引)の対象不動産は条件が限られるため、それ以外の不動産は一般売買(相対取引)で売却することになります。その際、不動産会社による「囲い込み」には注意が必要です。

 

囲い込みとは、売主から売却依頼を受けた不動産会社が、他社に物件情報を出さず、自社のみで売買取引をしようとする行為で、売買成立時の仲介手数料を売主と買主の両方から自社が受け取ることを目的としています。

 

つまり、売主のために不動産を高く売ることよりも、不動産会社自らの売上である仲介手数料金額の最大化を優先しているということです。

 

囲い込みをされてしまうと、物件情報の開示範囲が極端に狭まり、他の不動産会社からの買手紹介が入らなくなるため、高値で売却できる可能性が低くなります。

 

囲い込みを避けるには、不動産会社との契約形態を複数の不動産会社に売却依頼できる「一般媒介契約」として、大手会社2社、地元密着会社1社の合計3社程度に売却依頼することです。それぞれに強みが異なるため、売主にとって良い買手に巡り合える可能性があります。

 

一方で、特定の不動産会社1社だけに売却依頼する「専属専任媒介契約、専任媒介契約」は、物件情報を他者へ知らせるレインズへの登録義務がありますが、いろいろ抜け道もあるので、やはり「一般媒介契約」とすることがおすすめです。

 

 

平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

 

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