ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
「共有持分」を相続した55歳男性の“悲痛な胸の内”
有森幸彦さん(仮名・55歳)は4年前、父から地方にある土地(約180坪)の1/3の共有持分を相続しました。
その土地はロードサイドにある更地で、現在は資材置き場として賃貸しているものの、雑草が生え放題で、定期的な草刈りなどが必要で、維持管理にかなりのコストがかかります。
現在、この土地は、叔母(79歳)共有持ち分1/3、いとこA(56歳)共有持ち分1/6、いとこB(52歳)共有持ち分1/6・幸彦さんの4人の共有名義となっています。こんなに名義人が多いのには、理由がありました。
この土地はもともと父方の祖父の所有で、祖父が亡くなったあと、叔父・叔母・そして幸彦さんの父親の3人が共同相続しました。しかし、4年前に叔父と父親が続けて亡くなったため、父親の持ち分は幸彦さんが、叔父の持ち分は叔父の子ども2人(幸彦さんのいとこたち)が半分ずつ相続し、現在の共有関係に至っています。
共有者のうち、地元に住んでいるのは叔母1人だけ。幸彦さんは、叔母以外の共有者である2人のいとことは、小学生時代の夏休みに会ったのが最後で、今となっては連絡先すらわかりません。また、叔母には子どもが3人いますが、皆結婚して遠方に居住しています。
「叔母もそれなりに高齢です。もし亡くなって3人のいとこたちが共有持分を共同相続したら、疎遠な共有者がさらに増えてしまいます。土地の管理処分を巡る共有者間協議が、恐ろしいほど面倒くさくなってしまう…!」
不動産の共有が面倒なことは、最初からわかっていました、といってうなだれる幸彦さん。正直、こんな厄介な状態からさっさと「イチ抜け」したいのが本音だといいます。
「将来を思うと本当に恐怖です。私の子どもたちに、こんなに複雑な事情がある土地を引き継がせるわけにはいきません。そう考えるともう、いてもたってもいられなくて…」
幸彦さんは、どうにかして叔母が元気なうちに共有者同士で話し合いを進めたいと焦っています。父の七回忌までに何とか共有関係の解消に目処をつけたいところですが、不安は募るばかりです。
「みんな平等」の精神で、「不動産の共有名義」が大発生!?
不動産の共有関係を回避したくても、さまざまな要因で発生します。具体的には、次のような理由があります。
①相続手続きで「とりあえず共有」
法律上、相続が発生すると、遺産はいったん、自動的に「法定相続人全員の共有(遺産共有)」となります。しかしその後、遺産分割協議で分割案がまとまらないと、まずは公平に「とりあえず共有」として分割を先送りすることになりがちです。相続を原因とする共有発生が最も多くなります。
②遺留分侵害による遺留分減殺請求(旧民法)
令和元年6月30日以前(旧民法)は、「遺留分減殺請求」がされた場合は遺産の取得行為そのものが一部無効になる効果があったため、遺留分を侵害された人は、不動産の共有持分など遺産そのものの一部を取得できた一方、意に反する共有名義不動産が生じていました。
なお、令和元年7月1日以降(改正民法)では、「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」に改正され、それ以降に発生した相続での遺留分侵害については、不動産の共有持分等の「現物」ではなく、侵害額に相当する「金銭」を請求できるのみになったことで、遺留分侵害から共有名義不動産が発生する原因はなくなりました。
しかし、旧民法下でのルールによって共有関係が生じている不動産は現在でも多く存在します。
③共有前提とした不動産取得
共働き夫婦が高額な物件を購入するため、ペアローンや収入合算で住宅ローンを組む、税制面での優遇を受けるための「夫婦によるマイホーム取得」をする、親子が同居する「二世帯住宅建設」において贈与税対策として共有名義を前提に不動産を取得する等のケースがあります。
④共有持分の相続
本事例のように、相続時点ですでに共有状態になっており、相続したのが「共有持分だった」という場合においては、相続放棄する以外に不動産共有を避けられない状況下で、しぶしぶ共有関係を承継したか、あまり深く考えずに相続するようなケースがあります。
“すでに共有状態”の解消・離脱を実現する「5つ」の方法
すでに共有状態になってしまった共有名義不動産について、共有後からできる共有解消・離脱の5つの方法を解説します。
①共同売却と持分譲渡権限付与制度
共有者全員が売却に合意し、共同売却することで共有関係は解消されます。住宅ニーズのある地域であれば競争入札(オークション)による売却も可能ですが、それ以外なら一般売却(相対取引)になります。
売却に際しては、「現況更地」で売るか、ロードサイド店舗を誘致して「収益不動産」として売るかを検討します。
郊外型のロードサイド店舗は、土地面積などで業態は棲み分けされています。例えば「コンビニ:300坪以上、ドラッグストア:400坪以上、テイクアウト型飲食店:100~150坪」などです。
また、共有者の一部が将来行方不明になった場合、「所在等不明共有者の持分譲渡権限付与制度(民法第262条の3)」の裁判を利用することで、行方不明共有者の共有持分を譲渡する権限が他の共有者に付与され、共同売却が可能になります。
②共有持分の売買と持分取得制度
共有者間で共有持分の売買をすることで、共有関係を解消できます。買う側は単独所有権を取得し、売る側は共有関係から離脱します。共有持分の処分は各共有者の自由なので、もし共有者間で売買条件が合わなければ、他の共有者以外の第三者(買取業者など)へ売却して共有離脱することも可能です。
また、共有持分を買い取りたくても一部の共有者が行方不明である場合、「所在等不明共有者の持分取得制度(民法第262条の2)」の裁判を利用することで、行方不明共有者の共有持分を他の共有者が取得でき、共有関係は解消されます。
なお、所在等不明共有者の「持分譲渡権限付与制度、持分取得制度」は、民法改正により令和5年4月1日より施行された制度です。一定の金額を供託したうえで、裁判によって譲渡する権限が付与されたり、持分を取得したりすることができます。
ただし、遺産共有の共有不動産の場合は、相続開始から10年が経過している必要があります。
③共有持分の贈与、放棄
「共有状態を早く解消したい」「無償でも手放したい」というのであれば、共有者が他の共有者に共有持分を贈与することで、共有関係から離脱できます。
ただし、贈与は契約になるので、共有者が他の共有者に対して「無償で自分の共有持分を譲りたい」といっても、相手が応じなければ贈与契約は成立しません。贈与税や不動産取得税、登録免許税、贈与後の固定資産税の増加を理由に、他の共有者から「いらない」といわれる可能性もあります。
贈与が難しければ、共有者が一方的に共有持分を放棄して、共有関係から離脱することも可能です。放棄は単独でできるため、他の共有者の同意は不要であり、放棄した持分は、他の共有者に帰属します(民法第255条)。
ただし、登記名義を変更しなければ、放棄した共有者は固定資産税の支払い義務を免れることはできないため、不動産の名義変更登記は、放棄した共有者と他の共有者との共同申請です。
他の共有者が放棄した持分の引き受けを拒む場合は、放棄した共有者は登記引取請求訴訟を提起し、判決を得てから単独で登記手続きを進めることになります。
④所有権の共同放棄
共有者全員が「不要な不動産なので手放したい」と合意できるなら、隣地所有者へ無償で譲渡することもできます。譲渡契約書を締結して、所有権移転登記費用を当方負担とすれば、引き取ってくれる可能性はあります。
また、不動産自体に魅力がなく、隣地所有者にも断られた場合は、不要な土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」の利用を考える必要があります。本制度の利用は、相続した不要な農地や山林のイメージがあるかもしれません。しかし、帰属承認件数で最も多いのは宅地で、全体の約40%を占めています。
本制度の利用には、共有者全員が帰属に合意する必要があります。加えて、本制度は申請受理まで辿り着ければ承認率90%以上(令和7年6月30日時点)ですが、本申請ができるまでに申請要件を満たすためのハードルがあり、承認後は負担金の支払義務があるなど一定の費用負担が生じます。
⑤不動産の交換
共有者間で、共有持分と他の不動産を交換することで、共有関係を解消する方法です。物々交換が基本ですが、交換価格が等価にならない場合は、その差額を「交換差金」として現金清算することになります。
ただし、交換する不動産がなかったり、共有持分の価格が低かったりする場合は交換が成立しないため、共有持分売買のほうが現実的です。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
注目のセミナー情報
【海外不動産】12月18日(木)開催
【モンゴル不動産セミナー】
坪単価70万円は東南アジアの半額!!
世界屈指レアアース産出国の都心で600万円台から購入可能な新築マンション
【事業投資】12月20日(土)開催
東京・門前仲町、誰もが知る「超大手ホテルグループ」1階に出店!
飲食店の「プチオーナー」になる…初心者も参加可能な、飲食店経営ビジネスの新しいカタチとは?
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】
