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後妻に自宅で暮らしてもらい、死後は長男に戻してほしいが…
「人生後半をともに過ごすパートナーと、ひとり息子。どちらも大切な存在なのです…」
そういって頭を抱えるのは、大手企業の管理職を務める佐藤康さん(59歳・仮名)です。康さんが最初の妻と死別したのが19年前。その後、男手ひとつで1人息子の晶さん(30歳)を育ててきました。そんな康さんですが、昨年、縁あって真由美さん(57歳・仮名)と再婚することになりました。
母を亡くした当時はまだ子どもだった晶さんも、3年前には会社の同僚と結婚し、親元から独立しています。
真由美さんと出会った康さんが結婚に踏み切ったのは、息子の結婚で肩の荷が下りたのと、これからまだ長い人生、ひとりで生きていくことに寂しさを覚えたからでした。
「息子が〈結婚したらいいじゃないか、賛成するよ〉といってくれたのが、いちばん大きかったです」
しかし、康さんには懸念点がありました。真由美さんは若くして両親を亡くし、また、自身も20代で離婚を経験していますが、子どもはありません。しかし、既婚で2人の子どもを持つ弟がいます。
「住み慣れたわが家が、よその家系の財産となるのには、抵抗があります…」
康さんの自宅は、世田谷区に建つ一軒家です。土地は康さんの親から相続したもので、建物は晶さんが小学生になったときに建築しました。住宅ローンは完済しています。康さんはこれ以外にも、預貯金など数千万円の金融資産を保有しています。
康さんと真由美さんは自宅で一緒に暮らしていますが、康さんは「将来自分が亡くなったあとも、真由美さんには経済的に困窮することなく、自宅で暮らしてほしい」と思う一方で、「真由美さん亡きあと、自分から引き継がれた財産が残っていた場合、すべて長男に戻してほしい」とも考えています。
一体どうしたらいいのでしょうか。
遺言の限界…「相続したその後」までは指定はできない
遺言では、「自分が亡くなったら後妻に財産を相続させる。その後、後妻が亡くなったら、後妻が相続した財産は、先妻との間に生まれた子どもに相続させる」といった二次相続以降の資産承継先の指定はできません。私法の基本法である民法には、基本原則の1つである「所有権絶対の原則」があるからです。
所有権絶対の原則とは、「所有権者は、その所有物を自由に使用・収益・処分することができ、これを侵害する者に対しては、その侵害を排除することができる」というものです。
つまり、相続で遺産を受け取った相続人は、その遺産(所有権)を消費することも、有償・無償で誰かに譲渡することも自由なのです。被相続人が遺言で指定できるのは、相続人等に相続させたり、遺贈したりするところまで。相続人が遺産を取得したその先の指定、いわゆる「後継ぎ遺贈」の遺言はできないということになります。
今回、真由美さんの両親は他界していますが、既婚で子どもを持つ弟がいます。将来、康さんが亡くなって自宅をはじめとする財産を真由美さんが相続すると、その後の真由美さん自身の相続では、真由美さんの相続発生前に、康さんの長男である晶さんと真由美さんが養子縁組でもしない限り、晶さんは真由美さんの相続人にはなれません。
法律上、真由美さんの法定相続人は弟です。もしも相続時に弟が亡くなっていたら、その子ども(真由美さんの甥や姪)が代襲相続することになります。
康さんが何の対策もせずに亡くなると、自宅マンションなどの相続財産は、真由美さん側の家系に渡ることになります。
他家へ財産が流出するのを回避する「信託スキーム」とは?
財産を他家に流出させない対策としては、民事信託の活用が選択肢となります。民事信託では、承継する権利を所有権ではなく、「信託受益権」という債権に転換するので、財産の委託者が二次相続以降の資産承継先まで指定することができます。
その根拠法である信託法第91条には、次のように規定されています。
このような、二次相続以降の資産承継先まで指定する民事信託を「後継ぎ遺贈型・受益者連続信託」といいます。
今回、自宅や金融資産などの遺産を他家(真由美さん側の親族)へ流出させないようにするには、次のような信託スキームを組成することになります。
〈信託スキーム〉
●委託者(財産を託す人):康さん
●受益者(最初に利益を受ける人):康さん
●第二受益者(受益者死亡後に利益を受ける人):真由美さん
●受託者(財産を託される人):長男
●第二受託者(受託者死亡等において受託者に代わる人):長男の妻
●信託財産:自宅、金融資産の一部
●信託終了事由:康さんおよび真由美さんが死亡したとき
●帰属権利者(信託終了時に残存する信託財産を取得する人):長男
この信託スキームでは、康さんの存命中は康さん自身が、康さん亡きあとは真由美さんが自宅等を使用します。真由美さんが死亡したときに本信託は終了し、終了時に残存する財産は長男が取得することになります。加えて、長男の不測の事態(死亡、事故など)に備えるため、第二受託者として長男の妻など信頼できる身内を指定しておくとより安心です。
なお、もしも信託開始後に帰属権利者である長男が死亡した場合は、代わりの帰属権利者は委託者(康さん)となります。委託者が死亡している場合は委託者の相続人(真由美さん、長男の子がいる場合はその子)が、委託者の相続人も死亡している場合は、信託終了時に清算を行った受託者(長男の妻)が帰属権利者となります(信託法第182条第3項)。
なぜ「配偶者居住権」ではダメなのか?
被相続人の亡きあとも配偶者の生活(自宅の居住権など)を確保する方法として、配偶者居住権が知られています。配偶者居住権とは、令和2年4月1日から施行された制度で、夫婦の一方が亡くなった場合、残された配偶者が、「亡くなった人が所有していた建物」に、自身が亡くなるまで、または一定の期間、無償で居住することができる権利のことです。
今回のケースにおいて、康さんの相続時(一次相続時)に長男が自宅の所有権を引き継ぎ、真由美さんには生涯無償で住み続けられる権利(配偶者居住権)を設定する、という生前対策でも、問題ないように思えます。
しかし、年齢を重ねた真由美さんが、ずっと自宅で生活できるかはわかりません。もし真由美さんが入院することになり、空き家になった自宅を長男が売却すると、配偶者居住権は消滅し、売却代金は所有者である長男が取得することになります。そうなると、真由美さんの財産と権利は不安定になってしまうのです。
仮に、真由美さんが施設に入所したり、入所費用の捻出のために自宅売却が必要になったりすることを考えると、配偶者居住権より受益者連続信託のほうが、康さんの「真由美さんが経済的に困らないように」という希望に沿ったものとなるといえます。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
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