金融庁、暗号資産の「金商法枠」への移行を本格検討…申告分離課税への改正のほか、損失繰越控除も可能となる見通し【弁護士が解説】

金融庁、暗号資産の「金商法枠」への移行を本格検討…申告分離課税への改正のほか、損失繰越控除も可能となる見通し【弁護士が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

金融庁は暗号資産を「金融商品取引法(金商法)」の枠組みとすることを本格検討しています。ほかにも、株式などと同様の申告分離課税への改正、損失繰越控除も可能となる見通しです。この制度変更には、どのような真意があるのでしょうか。暗号資産に精通する国際弁護士の森和孝氏が5回に分けて解説します。

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転換点に立つ日本の暗号資産政策

2025年7月10日、ビットコインが史上最高値となる11万2,000ドル(約1,600万円)超を記録しました。この価格上昇は、世界的な暗号資産市場の成熟と機関投資家の本格参入を象徴する出来事と捉えています。まさにこのタイミングで、日本の暗号資産政策は重要な転換点を迎えています。

 

金融庁は暗号資産について、現行の資金決済法での個別管轄から、一括的な管理・監督が可能な「金融商品取引法(金商法)」の枠組みへ移行することを本格検討しています。同時に、分離課税制度の導入により現在の総合課税(最大55%)から株式などと同様の申告分離課税(約20%)への改正、さらに損失繰越控除(3年)も可能となる見通しです。

 

この制度変更の背景には、単なる税制改革を超えた、現行市場の深刻な構造的問題と、国際的な暗号資産覇権競争における日本の立ち位置という、より本質的な課題が横たわっています。本稿では、この重要な制度変更の真意を読み解き、その影響と課題について5回に分け、包括的に分析します。

金融庁が描く「新しい暗号資産像」と市場の現実

1.Web3社会への期待と現行市場の問題

金融庁のディスカッション・ペーパーで最も注目すべきは、Web3技術に対する基本認識の変化です。Web3とは、ブロックチェーン技術を基盤とした新しいインターネットの概念で、現在の大手プラットフォーム企業による中央集権的管理から、個人がデータの所有権を持つ分散的で透明性の高いサービスへの転換を目指しています。

 

金融庁はこのWeb3の健全な発展が生産性向上や社会課題の解決に貢献するとの前向きな認識を示し、暗号資産を単なる投機対象ではなく、新たな社会インフラの基盤技術として位置づけています。

 

しかし、現在の暗号資産市場は深刻な構造的問題を抱えています。ブロックチェーンの本来的価値は分散性と公開台帳による透明性にありますが、実際には過去の取引記録のみが公開されているに過ぎず、投資判断に重要な情報(保有者構成、運営者の売却タイミングなど)は中央集権的に管理され、かつ、一般投資家にはアクセスできません。

 

さらに深刻なのは、現在流通するプロジェクトの95%以上が「上場ゴール」と化しており、取引所上場後に90%以上の価値を失う銘柄が圧倒的多数を占めていることです。これは、プロジェクト運営者や初期投資家が上場イベントを利用して組織的な利益確定を行っているという構造的問題に起因しています。

 

2.暗号資産の2つの顔と規制アプローチ

金融庁は暗号資産を性質に応じて2つに分類し、それぞれに適した規制を適用する「類型別アプローチ」を採用するとしています。

 

「広く流通する基盤資産」(ビットコイン、イーサリアムなど)については、主に取引所による投資家への説明責任を強化します。価格変動要因の詳細説明、リスク情報の適切な提供、重要情報の迅速な伝達などが求められます。

 

「特定目的で発行されるトークン」(プロジェクト型トークン)については、発行企業による直接的な情報開示義務を課します。事業計画の詳細、リスク要因、財務状況などを記載したホワイトペーパーの精度向上と第三者検証が義務付けられ、株式投資と同程度の厳格な情報開示が求められます。

 

3.現在の市場問題への対応と限界

急成長する市場の裏で深刻化している問題への対応も強化されます。オンラインサロンやSNSを通じた詐欺的投資勧誘、ホワイトペーパーと実態の深刻な乖離、無登録業者による組織的な詐欺行為などに対し、投資運用・助言行為の規制対象拡大や取り締まり強化が検討されています。

 

ただし、暗号資産の最大の特徴であるパーミッションレス(許可不要)という性質により、日本単独での規制には構造的な限界があります。開発者は他国に拠点を移し、利用者は海外プラットフォームを使用し、トークンは世界規模で自由に取引され続けることになるため、完全な規制統制は困難であるという課題は残ります。

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