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蝕まれていく母親の資産
和彦さんの母親の年金は月16万円ほど。しかし、自身の生活費に加え、働かない弟の食費を含む生活費や国民年金保険料まで母親が負担しているため、家計は火の車。毎月30万円以上が母親の貯金残高から消えています。弟は自身が相続した3,000万円を、この6年ですでに半分近く浪費していました。
和彦さんが実家に帰省するたび、母親は「あの子を甘やかしてしまった罰かしら……」と力なく笑うようになりました。
和彦さんの母親のように、老後の生活資金に不安を抱える高齢者は少なくありません。たとえ十分な資産があるようにみえても、平均寿命が延びるなか、医療や介護で想定外の支出が発生するリスクは常に存在します。生命保険文化センターの調査(2021年度)では、介護にかかる一時費用の平均が74万円、月々の費用が平均8.3万円とされ、介護期間が5年を超えれば総額は500万円以上になる計算です。働かない子どもの生活費まで負担している場合、資産の目減りはさらに加速してしまいます。
母親と弟の将来を守る手段
このままではいけない――。兄として、そして息子として、和彦さんは母親と弟の将来を守る方法はないかと調べはじめます。
そこで彼は、主に二つの制度の存在を知りました。一つは、母親が元気なうちに信頼できる家族に財産の管理や運用を託す「家族信託」。そしてもう一つは、将来の判断能力の低下に備えて後見人を指名しておく「任意後見制度」です。どちらも、本人の意思で財産の行き先を決め、望まない相手からの搾取を防ぐための有効な手段でした。
このままなにもしなければ、母親は次男への大きな不安を抱えたままこの世を去ることになるかもしれません。そうなると、弟の次の依存先は兄である自分でしょう。和彦さんは、母親にこれらの制度について話し、家族の未来について真剣な対話を求めました。
母親が下した、未来への決断
対話の末、母親はついに大きな決断を下します。
まず、和彦さんの子どもたち、つまり孫へ教育資金として生前贈与を行いました。そして、残る金融資産のほとんどを、和彦さんを受託者とする「家族信託」の仕組みで管理することを決めたのです。さらに、万が一のことがあった際は、その信託財産は和彦さんが引き継ぐという内容の遺言書も作成しました。
弟の誠さんには、現在住んでいる実家の戸建てを遺すことに。これは、弟の最低限の相続権である「遺留分」を考慮した、ギリギリの采配でした。
「俺のカネはどうなるんだ!」と食い下がる弟に、母親は言葉を返しませんでした。その代わり、彼女は行動で覚悟を示します。和彦さんと相談のうえ、これまで誠さんが自由に使い、母親の預金を引き出していたキャッシュカードの利用を、銀行に連絡して完全に停止させたのです。
