弁当店、倒産ペース加速…2025年は過去最多も
農林水産省によると、令和年6年産⽶の令和7年5月の相対取引価格は、備蓄⽶の取引を含む全銘柄平均で2万7,649円/60kgとなり、対前年同⽉プラス1万2,052円(77%増)、対前⽉でプラス547円(2%増)だった。コメの使用比率が高い弁当業態では、この価格上昇がそのまま原価率の悪化につながる。しかも、弁当という業態の特性上、顧客単価の上限が明確に存在する。安易な値上げは顧客離れを招くリスクもあり、採算確保が難しくなっている。
帝国データバンクの調査によれば、2025年1月から5月の間に発生した「弁当店」の倒産件数(負債1,000万円以上、法的整理)は22件に上り、前年同期(21件)を上回るペースで推移。2025年は年間倒産数が過去最多となる可能性もある。
背景には、大口注文や法人向けのニーズ減退に加え、食材・人件費の高騰がある。さらに、街の個人弁当店は、コンビニやスーパーの「ワンコイン弁当」とも競合しており、価格競争から抜け出せず苦戦している。
中小企業診断士で公認会計士の貝井英則氏(シェル総合会計事務所代表)は
「コメの価格高騰は、弁当業態にとって主力商品(=白米)の原価が直接跳ね上がってしまします。とりわけフランチャイズ展開をしている店舗では、価格改定の裁量が限られる場合が多く、現場レベルでの『販売構成の工夫』や『ロス管理』が利益確保の鍵となります」
と指摘する。
段階価格制で原価抑制と満足度を両立
貝井氏によると、対応策として以下の施策が重要であるという。
●ご飯の小盛・大盛による段階価格制を戦略的に活用・強調
●副菜やトッピングによる高粗利商品の推奨販売
●時間帯別・商品別のロス分析と炊飯最適化
●本部と連携したブレンド米・仕入ルートの見直し
特に、段階価格制の活用は、単なる価格差の設定ではなく、小盛選択への自然な誘導を通じて原価を抑制する実効的な手段となるという。たとえば、
●小盛(150g):基準価格から▲30円
●普通盛(200g):基準価格
●大盛(300g):基準価格+100円
と設定することで、
「『ダイエット中の方におすすめ』『小食の方でも満足』といったメッセージをPOPやスタッフの声かけに添えることで、小盛を選ぶお客様も一定数見込まれます」
と貝井氏は語る。
このように、“選べる”という制度を“選ばせる”動機づけに変えることで、以下の多重効果が期待できるという。
●米の使用量を抑制(原価軽減)
●小盛により客単価が下がっても、副菜や味噌汁などをセット販売することで粗利を補完
●「選べる仕組み」が顧客満足度の向上にもつながる
「価格転嫁が難しいフランチャイズ店舗においては、“構成の工夫”で収益を守る知恵が求められており、その代表的手法が段階価格制の戦略的運用と小盛誘導なのです」(貝井氏)
カレー業態も“構造的コスト高”に直面
同じくコメを主食に据える外食業態である「カレー店」も、同様に厳しい局面に立たされている。2024年度(2024年4月〜2025年3月)におけるカレー店の倒産件数は13件と、年度としては過去最多を更新した。2025年度も既に2件の倒産が発生しており、廃業や閉店を含めると実態はさらに深刻だ。コロナ禍ではデリバリー需要に支えられたカレー業態だが、特需は既に一巡。とりわけ2022〜23年にかけてのスパイスカレーブームを機に新規参入が相次いだことで競争も激化し、体力のない店舗は淘汰が進みつつある。
さらに「カレーライス物価指数」(帝国データバンク調べ)では、2024年度の1食当たりのコストは365円と過去10年で最高に。特に米価格は過去5年間で1.4倍にまで上昇。野菜や肉の高騰、光熱費や人件費の増加も重なり、経営を圧迫している。
貝井氏によるとカレー業態の経営の難しさは、次の2点に集約されるという。
①「満腹感・スピード・価格」が求められる
②競合が多層的で差別化が難しい
と貝井氏が解説する。
①については、
「手早く、お腹いっぱいに、安く食べられる」(貝井氏)
ことが前提とされており、原価や人件費の上昇がそのまま採算悪化に直結しやすい。また②については、
「安さの牛丼チェーン、本格さのインドカレー店、手軽さのレトルトなど、あらゆる価格帯・提供形態の選択肢が並列に存在している」(貝井氏)
という。
価格以外の“価値軸”再設計が生き残りの鍵
その一方で、カレーは調理工程が比較的単純で再現性が高く、マニュアル化・省人化に適していることから、フランチャイズ業態との相性は良好だ。だからこそ重要なのは、
「“どこで利益を積むか”を戦略的に見直す」(貝井氏)
という視点だ。
たとえば貝井氏によると、以下のように価格以外の価値軸を再設計することが求められるという。
●トッピングやセットによる単価調整
●アプリやLINEによるリピーター対策
●女性客や少食層向けの構成メニュー工夫
実際に、カレーチェーンのなかにはフードコート出店やテイクアウト特化モデルへの転換、冷凍レトルト品の通販強化などで活路を見出す動きも見られる。インバウンド需要の回復も追い風となっており、観光地や空港、ターミナル駅周辺では訪日外国人向けに「ジャパニーズカレー」を打ち出す新店舗の開業も相次いでいる。
フランチャイズ本部に求められる「支援の質」
では、こうした厳しい環境下において、フランチャイズ本部はどのような戦略を講じていくべきなのか。
貝井氏は「インフレ環境では、フランチャイズ本部の『支援力』が問われます。本部が加盟店に対して果たすべき役割は、単なるマニュアル提供にとどまらず、現場の収益を守る実装可能な経営支援です」と分析する。
対応としては主に以下の点が挙げられる。
●食材仕入の見直し(ブレンド米や共同調達による原価低減)
●教育マニュアル・動画研修で省人化と接客品質の両立を図る
●ダッシュボードや計数管理ツールによる“見える化”支援
●トッピングやセット構成による粗利確保策の展開
●アプリやLINEを活用したLTV最大化の販促ツール提供
「本部の資源力(ブランド、仕入、教育、分析)を“与える”のではなく、加盟店が使いこなせる状態にすることが本質的支援です。また、サラリーマン店長とは異なり、自分の人生をかけて運営しているフランチャイズオーナーは“本気度”が違います。その本気に応えるためには、現場の声を尊重し、柔軟かつ双方向の運営体制を築くことが不可欠です」(貝井氏)
現在の外食業界では、「機械化と接客力の二極化」が進んでいる。大手チェーンは配膳ロボットやセルフレジによる省人化を追求し、個人店は接客力と常連づくりで生き残りを図っている。
「フランチャイズはその中間に位置し、仕組み(マニュアル、POS、調理工程)と、柔軟な対応(接客、裁量)を併せ持てる強みがあります。この難局を乗り切るカギは、『本部の仕組みを守ること』ではなく、本部の仕組みを本気で使いこなすことです」(貝井氏)
貝井氏によると、オーナー自身が仕組みの主体者になり、次のような姿勢が不可欠であるという。
「何より、経営には「環境のせいにしない力」が求められます。制度・戦略・人材が厳しい状況でも、“変えられるところから動かす”ことができる経営者こそが、フランチャイズの強みを最大限に引き出せるのです」
米価格の高騰は、単なる食材価格の上昇にとどまらず、「ごはん文化」を支える外食業態そのものの持続性を問う問題となっている。日本人の主食としての米をどのように活用し、ビジネスとして成立させるか――注目される。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
