今回は、信託を活用して後継者に自社の「議決権」だけを譲る方法を見ていきます。※本連載は、ウィル税理士法人編著(執筆:代表税理士の親泊伸明氏ほか)の書籍、『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』(マスブレーン)の中から一部を抜粋し、「信託」を活用した具体的な事業承継対策をご紹介します。

信託なら自社株式を「議決権」財産権に区別できる

<相談内容 >

谷村さん(63歳)は、サラリーマン時代に積み上げた経験を基に、食料品製造業を立ち上げ、会社を経営されています。谷村さんは、子供にも恵まれ、4人の子供がおり、次男が事業を承継してくれる予定です。

 

相続財産のほとんどは自社株式であり、承継者として責任感を感じるようになったので、自社株式を次男に贈与してあげたいと考えております。おかげさまで、毎年一定の利益が出ており、自社株式の評価額が高くなっているため、自社株式を贈与すると多額の贈与税が生じます。子供が4人いることから、揉めないために早く次男に株式を譲ってあげたいと思っておりますが、株式を譲れないまま、時間だけが過ぎています。

 

<問題点の整理>

相続税対策のために、自社株式を贈与することは、よくあることだと思います。しかし、自社株式の評価額があまりにも高いと、多額の贈与税がかかってしまう結果となります。自社株式の評価額は、利益がでると上昇する傾向にあり、逆に損失が生じると下降する傾向にあります。

 

そこで、株式の贈与にかかる税負担を軽減するためには、株価が低い時期に移転させることが有効であると言えます。今回の相談内容は、承継者である次男に早く渡してあげたいが、株価が下降するタイミングがいつ到来するかわからないという点が問題点として挙げられます。

 

しかし、信託の仕組みを利用することで、次のような対策が可能となります。

 

信託の仕組みを利用すると、自社株式を議決権(支配権)と財産権(受益権)に区分することができます。本来、議決権には財産価値があるはずですが、税務の世界では、議決権の価値は無いものとして取り扱われ、自社株式の価値は、すべて財産権にあるとして整理されています。そこで、信託を設定し、谷村さんが所有する自社株式の議決権は、すべて次男に譲り、財産権(受益権)は、谷村さんに残すという形を取ります。そうすることで、株価が高かったとしても、次男に議決権を譲ることが可能となります。

税務上、議決権には財産価値はない

<解決策>

 

① 次男が受託者として、信託財産(自社株式)を所有し議決権を行使するために、信託を設定します。

 

② 設定した信託については、財産権(受益権)を贈与できるように設定し、株価が下降したときに、谷村さんから次男に贈与します。

 

③ 必要があれば、信託契約で議決権行使の指図権者を受益者(谷村さん)とすることで、谷村さんの影響力を残すことができます。

 

④ 次男だけに財産権(受益権)を贈与した場合に、家族間で揉める可能性が生じるのであれば、議決権ではなく、受益権を非後継者である長男・長女・谷村さんの妻に一定割合を譲るように定めます。

 

<税金の取扱い>

① 信託を設定することで、自社株式を財産権(受益権)と議決権(支配権)とに区分することができます。税務上は、議決権には財産価値はないとされていることから、受益権の評価額は、自社株式の相続税評価額と同一となります。

 

② 生前に受益権を移転する場合には、受益権の評価額を引き下げる対策をしてから実行します。

 

【図表】受益権と議決権行使の指図権

本連載は、2016年10月27日刊行の書籍『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

経営者と不動産オーナーのための 信託・相続

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