今回は、中小企業の事業承継を円滑にする「信託」の活用例を見ていきます。※本連載は、ウィル税理士法人編著(執筆:代表税理士の親泊伸明氏ほか)の書籍、『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』(マスブレーン)の中から一部を抜粋し、「信託」を活用した具体的な事業承継対策をご紹介します。

経営上の空白期間を生じさせない「遺言代用信託

中小企業庁では、「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会」を設け、事業承継円滑化のための信託の具体的な活用方法等について検討を行いました。既存の法体系に抵触することのない信託のスキームについて一つの考え方が示されました。

 

【図表1 遺言代用信託を利用した自益信託のスキーム】
 

<解説1>

①信託の方法として、遺言代用信託を活用します。信託契約書に信託財産(自社株式)、信託目的、受益者、受託者、議決権行使の指図権の内容・順位等を定め、相続開始に伴い信託が開始します。

 

②後継者は、相続開始と同時に受益者となることから、経営上の空白期間が生じないなど、遺言と比較してメリットがあります。

 

③財産権(受益権)を分離して非後継者の遺留分に配慮しつつ、議決権行使の指図権を後継者のみに付与することで、議決権の分散を防止し、安定的な承継を実現可能とします。

 

④受益者Aの相続開始により、財産権(受益権)がB・Cに移転し、相続税の対象になります。

経営者の経営権を維持できる「他益信託

【図表2 他益信託を利用したスキーム】                  

 

<解説2>

① 信託の効力発生時の受益者が、委託者と異なる場合の信託を他益信託と呼んでいます。それが適正な対価の授受がなされなかった場合には、委託者から受益者に信託財産(自社株)が贈与されたと考えて、受益者に贈与税が課税されます。

 

 

② 経営者が議決権行使の指図権を保持することで、経営者は、引き続き経営権を維持しつつ、自社株式の財産部分のみを後継者に取得させることが可能です。

 

③ 同様の効果を有する種類株式の発行と比較して手続きが容易です。また、拒否権付株式の発行の場合、積極的に会社の意思決定を行うことはできません。

 

※以上のほか、現経営者が、子の世代の後継者だけではなく、孫の世代の後継者を決定することが可能な「受益者連続型信託(後継ぎ遺贈型受益者連続信託)」も事業承継に活用可能です。

本連載は、2016年10月27日刊行の書籍『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

経営者と不動産オーナーのための 信託・相続

経営者と不動産オーナーのための 信託・相続

ウィル税理士法人

マスブレーン

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