今回は、分散した自社株式を信託の活用で後継者に集約する方法を見ていきます。※本連載は、ウィル税理士法人編著(執筆:代表税理士の親泊伸明氏ほか)の書籍、『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』(マスブレーン)の中から一部を抜粋し、「信託」を活用した具体的な事業承継対策をご紹介します。

後継者に議決権を集めることが事業承継の課題に

<事例>

橋本さんは、創業者です。現在も現役の社長として元気に活躍しています。家族は、妻、長男、長女、次男、三男がいますが、子供たち4人の中で後継者を次男と決めています。

 

しかし、自身の相続税対策を実行するにあたり、多くの自社株式が妻をはじめ子供達に分散してしまいました。後継者に集中すべき自社株式が非後継者の家族に分散してしまい、経営活動に支障が起きることになりかねません。また、経営活動の方針決定等により、家族が争いをすることだけは避けたいと思っています。会社の経営権を確実に次男に引き継ぐ方法はないものでしょうか?

 

<問題点>

分散した株式を後継者次男に戻すことは、税金の追加なども発生するので簡単にはできませんが、経営権を確保するためには後継者に議決権を集中させることが重要になります。多くの自社株式が家族に移っている現在、オーナー経営者は、影響力がある元気なうちに、ツルの一声で全ての自社株式を信託し、議決権だけでも後継者に集中させることが重要になります。

自社株式を信託財産に設定し、議決権を集約

<解決スキーム>

自社株式を信託財産とする信託を設定することで、議決権を集約させることができます。議決権を集約させる方法としては、①受託者を橋本さんとし、次の受託者を後継者とする方法、②指図権を橋本さんとし、次の指図権行使者を後継者とする方法、③一般社団法人を設立して、一般社団法人を受託者として、一般社団法人の理事を橋本さんや後継者とする方法が考えられます。ここでは③の形で信託を設定します。財産権(受益権)は、株主であった委託者に残すことで、信託設定による贈与税の課税はありません。

 

<注意点>

株主(委託者)と一般社団法人(受託者)との信託契約締結にあたり、信託された各株主の株式数を明らかにしておくことが必要となります。信託が終了することを想定し、株式発行会社の解散など、信託の終了事由を信託契約書に記載します。

種類株式より手続きが容易で、登記の必要もない信託

種類株式の発行には、株主総会での特別決議や特殊決議、種類株式の内容の登記が必要です。また、既存株主が持つ株式の種類を変更するには、全株主の同意が必要となります。信託であれば、当事者間(家族・同族)の契約のみで効力が発生し、登記も必要がありません。従って支配権を第三者に知らしめることなく実行することが出来ます。

 

種類株式により信託と同様の効果(議決権と財産権の分離)を達成する方法として「拒否権付株式の発行」をするこが考えられます。すなわち、後継者へ自社株式を贈与しますが、会社の重要な意思決定にだけ影響力を残したいと考える場合、株主総会の決議を拒否する権限を付与する種類株式を拒否権付株式といいます。

 

しかし、拒否権付株式を発行すると、後継者等の株主が積極的に意思決定することができなくなったり、株主間で対立する原因にもなります。また、拒否権付株式を後継者以外の者が相続してしまわないように、事前に株式消去などを講じる必要があり面倒です。これに対して、信託であれば、オーナー社長は議決権指図権という形で会社に対する影響力が明確になり、これらの面倒な問題が生じるおそれはありません。

本連載は、2016年10月27日刊行の書籍『経営者と不動産オーナーのための信託・相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

経営者と不動産オーナーのための 信託・相続

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