ガソリンスタンドの価格以外の選択肢とは?
私が携わってきたガソリンスタンド(GS)業界は、価格競争の主戦場でした。従来のフルサービス型GSに対し、欧米から持ち込まれたガソリンをお客さんが給油するセルフ型GSが解禁となり、人件費がかからない分、セルフ型が常に2円~3円/リットル安い状態となります。
価格では太刀打ちできない従来のフルサービス型GSは、価格追随を余儀なくされて大幅減益に追い込まれるか、退場するかの2択を迫られていました。このままでは既存GSはすべてやっていけなくなると思った私は、価格以外の選択肢がないかを2軸思考で考えました。
2軸思考とは、縦軸に価格(上が高い、下が安い)を取り、横軸には価格以外の選択肢を取る思考法です。
どこにお客さんのニーズがあるかをリサーチした結果、セルフ型GSになってしまうことで、車のメンテナンスができなくなることへの不満があることに気が付き、横軸にディーラー以上のカーメンテナンス(例:車検、鈑金、手洗い洗車、レンタカー等)を行う」という軸を取ってみました。
こうすると、従来のサービス+相対的に高いガソリンを売る従来型のGSと、相対的に安いガソリンを売るセルフ型GSが対立しているのがわかります。このままだとお客さんはセルフ型GSへ流れます。
そこで、カーディーラー以上のメンテナンスという軸を置くことで、お客さんが求める車検、洗車、鈑金等のメンテナンスを行うポジションができます。ここがいわゆるブルーオーシャン、価格競争のないポジションとなります。
価格で真っ向勝負するのではなく、提供価値を「メンテナンス」という軸にずらしたことで、お客様は価格だけでなく、カーメンテナンスをやってくれる否かを選択肢にしてくれるようになり、この店はガソリンも売れ、メンテナンスの収益も上がり、生き残ることができました。一方、価格競争を続けた店は残念ながら淘汰されていきました。
喫茶店、ハンバーガーに見る価格以外の選択肢
この2軸思考による差別化は、他の業界でも成功事例があります。たとえば、喫茶店はドトールの登場による価格競争で苦しみました。ドトールのコーヒーが100円台で売れるなか、300円の値付けしかできない喫茶店では太刀打ちできませんでした。
しかし、そこにスターバックスが登場します。彼らはコーヒーの価格を500円超えに設定しました。価格だけで考えれば、ドトールよりはるかに高く、昔ながらの喫茶店よりも高い。それでも、スターバックスは大流行しました。なぜでしょうか?
スターバックスは「サードプレイス」という選択肢を提供したからです。「家庭でも職場でもない、第三のくつろげる場所」。ゆったりしたソファ、電源、Wi-Fi、長居しても追い出されない雰囲気。
彼らはこれをサードプレイスと呼び、「サードプレイスを味わいたければどうぞ、うちに来てください」と明言しました。サードプレイスを求めているお客様にとって、そこは唯一無二の場所です。だから、価格が高くても選ばれるのです。
ハンバーガー業界を見てみましょう。当時のマクドナルドは安さを追求し、価格競争を仕掛けました。結果、多くの競合(ロッテリア、ドムドム、バーガーキングなど)は収益的に大きな打撃を受けてきました。
しかし、「モスバーガー」はたくましく生き残りました。モスバーガーは価格競争に乗らず、「和風の商品(味)」という価格以外の選択肢を顧客へ提示したからです。彼らは自らを「ファーストフードではない」と位置づけ、「美味しいハンバーガーをゆっくり味わいたいお客様」という層に支持されています。
モスバーガーは、もはやマクドナルドを直接の競合とは考えていないかもしれません。彼らは、むしろ「おしゃれなランチが楽しめるカフェ」などと競合していると捉え、そこに照準を定めているのではないでしょうか。

