レーガン大統領の「Make America Great Again」が響いたワケ
レーガン大統領が登場するまでのアメリカ社会には、ベトナム戦争やウォーターゲート事件、在イラン米大使館人質事件などがあり、「アメリカは本当に大丈夫なのか」「ソ連と対峙して追い込まれているのではないか」という不安が社会に広がっていました。経済も低迷し、アメリカ人が自信を失いつつあったのでしょう。だからこそ「Make America Great Again」というスローガンが響いたのです。
トランプについても同様で、中国が経済的にも軍事的にも大きく成長する中、アメリカは想像を絶する格差社会となり、世界的なIT企業が次々と誕生する一方、製造業の人々は職を失う状況になっています。やはり「Make America Great Again」のスローガンが多くの有権者に響く状況が、再び生じてきたと言えます。
さらにレーガン大統領は1981年、大統領就任直後に暗殺未遂事件に見舞われ、銃撃されながらも3週間後に公務に復帰しています。トランプも選挙期間中に銃撃を受けましたが、その場で立ち上がり、すぐに選挙戦に復帰しました。いずれも70代と高齢でありながら、タフな姿を国民に見せつけた点も共通しています。
しかし大きく違うのは、レーガン大統領が自身に政治能力が乏しいことを自覚し、周囲の振り付けに忠実だったことです。共和党系のシンクタンクなどがバックアップし、レーガン大統領はまさに俳優が台本を読むように、スピーチライターの原稿を読み上げ、大統領を演じてみせました。
トランプは「アプレンティス」というテレビのバラエティー番組で名をはせましたが、「誰かの振り付けで動く」ことはしていません。周りの言うことを聞くのではなく、自分の言うことを聞かせることに重きを置いています。
トランプが行った施政方針演説に対し、民主党のエリサ・スロトキン上院議員の反対演説では、「(トランプ政権の施策のひどさには)レーガン大統領が墓の中でひっくり返っていることでしょう」との表現が飛び出しました。これはかつてレーガン大統領を支持した共和党穏健派の中に、トランプの姿勢を忌避する声があることを意識してのことだったようです。
レーガン大統領は、良識的なリベラル派で、民主党の現職カーター大統領に勝って大統領となり、「強いアメリカ」を目指しました。冷戦期真っただ中の就任から8年の任期中に、レーガノミクスと呼ばれる経済政策や、「強いアメリカ」を目指すための軍事力の増強を実現し、ソ連に競り勝つ土台を作りました。
トランプは第一次政権期から米中対立を鮮明にし、この対立は「新冷戦」とも呼ばれます。一方のトランプノミクスは、関税引き上げ、政府効率化省による無駄の削減と減税を柱としますが、これでは強いアメリカ経済を復活させ、物価高に苦しむ国民を救える見込みは少ないでしょう。
池上彰
ジャーナリスト
増田ユリヤ
ジャーナリスト

