(※画像はイメージです/PIXTA)

「アメリカ第一」を掲げたトランプ氏の経済政策は、隣国との関係を揺るがし、「国を買う」とまで発言する大胆さで知られます。アメリカ・カナダ・メキシコの巨大経済圏USMCAへの影響から、グリーンランド買収発言の真意まで――。本記事では、池上彰氏と増田ユリヤ氏による著書『池上彰と増田ユリヤのYouTube学園特別授業 ドナルド・トランプ全解説: 世界をかき回すトランプ氏が次に考えていること』(Gakken)から一部を抜粋・再編集し、その見解を解説します。

「地図を書き換えろ!」―アメリカ・カナダ・メキシコの巨大な経済圏

アメリカの最大の貿易相手国はどこでしょうか。実は中国ではなく、カナダとメキシコです。アメリカの輸出先の第1位はカナダ、第2位はメキシコ。輸入元でも、両国は中国に次いで上位にランクしています。

 

アメリカとカナダの間では、1日あたり約20億ドル(約2,800億円)もの貿易が行われています。年間では7300億ドル(約105兆円)にもなります。メキシコとの貿易も同様に巨大で、年間約6600億ドル(約95兆円)。この三カ国で巨大な経済圏を形成しているのです。

 

たとえば、自動車。実はその部品は北米三国を何度も行き来して作られています。エンジンの部品はメキシコで作られ、それがカナダの工場に送られて組み立てられ、最終的にアメリカで完成車になる……というように。

 

あるいは、スーパーで買う野菜。冬の間、アメリカやカナダでトマトが育ちにくい時期には、メキシコから大量のトマトが輸入されています。

三カ国間の自由貿易協定の行方

この三国間には、USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)という協定があります。「US」がアメリカ(United States)、「M」がメキシコ(Mexico)、「C」がカナダ(Canada)、そして「A」が協定(Agreement)を表しています。以前、「NAFTA(ナフタ)」と呼ばれていた北米自由貿易協定の後継協定です。

 

NAFTAは1994年に発効した協定で、アメリカ、カナダ、メキシコの三カ国間で関税をほぼゼロにして、自由に物やサービスが行き来できるようにしたものでした。ところが、トランプは「NAFTAはアメリカにとって最悪の貿易協定だ」と批判し、見直しを要求したのです。

 

そして2018年に三カ国で新たな協定として合意したのが、このUSMCAです。2020年7月から発効しています。

 

NAFTAと比べて、USMCAには新しい特徴があります。たとえば、自動車の原産地規則が厳しくなりました。自動車の部品の40~45%は時給16ドル以上の労働者によって作られなければならないという決まりができました。これはメキシコの安い労働力に仕事が流れるのを防ぐためです。

 

また、デジタル貿易に関する規定も新たに入りました。インターネット上のデータのやり取りに関税をかけないことや、企業がデータを、国境を越えて自由に移動できるようにすることなどが決められています。

三国間の関係に大きな禍根

このように、三国はとても深く結びついているのです。だからこそ、トランプが「カナダやメキシコに25%の関税をかける」と言うと大問題になるわけです。

 

たとえば、カナダから輸入する自動車部品に25%の関税がかかると、アメリカで作られる車の価格が上がります。すると、アメリカの消費者は高い車を買わなければならなくなりますし、カナダの部品メーカーは仕事を失うかもしれません。

 

メキシコからの農産物に関税がかかれば、アメリカのスーパーの野菜の値段が上がります。

 

USMCAという協定は、北米三国の経済をつなぐ重要な枠組みです。三国はもはや一つの経済圏として機能していて、どこか一国の動きが他の国に大きな影響を与えます。

 

だからこそ、トランプの関税政策や強硬な発言は、単なる外交問題ではなく、北米全体の経済と消費者の生活にも直結する問題です。

グリーンランド買収の野望:帝国主義的発想

また、アメリカと隣接する場所として、グリーンランドがあります。選挙後、バンス副大統領がグリーンランドを訪れたことで、グリーンランド議会や住民らからブーイングを受けています。グリーンランドの新首相も、バンス副大統領の訪問は「グリーンランドの人々への敬意が欠けている」と述べています。

 

グリーンランド訪問では当初、バンス夫妻が犬ぞりレースなどを楽しむ予定だったものが、反発を受けて予定を変更し、ピツフィク米宇宙軍基地を訪れたと報じられています。住民の考えは、「デンマークからの独立を考えるとともに、アメリカからも独立する」というものです。

アメリカの領土拡大の歴史:過去の買収事例

アメリカの建国の歴史を見れば、土地を周辺国から買収しながら領土を広げてきた経緯があります。

 

アンドリュー・ジョンソン大統領(1865―1869年)の時代の1867年、アメリカはロシアからアラスカを720万ドル(現在の価値で約130億ドル程度)で購入しています。

 

当時は雪と氷に閉ざされた地だったので、「巨大な空っぽの冷蔵庫を買った」と批判されていたそうですが、後にベーリング海などの水産資源や、地下に眠る天然資源や金などが豊富に産出されることが判明。今もアメリカ全体の産油量のうち10%程度がアラスカから産出されていますから、中身の詰まった冷蔵庫だった。よい買い物だったわけです。

 

しかしこれはあくまでも19世紀の話。21世紀の世の中で、住民も多くいる地域を他国が「購入する」ということがまかり通るとは思えません。

 

なぜトランプはそうまでしてグリーンランドを手に入れたいのでしょうか。地下資源だけでなく、グリーンランドの地政学的な位置がその理由です。

 

グリーンランドはアメリカ・カナダとロシアの間に位置します。しかも近年、温暖化によって氷がとけ、採掘が可能になったグリーンランドの地下資源などに目を付けたロシアや中国の影響力が強まってきているため、ホットな場所(注目を集める重要な地域)になりつつあるのです。

 

 

池上彰
ジャーナリスト

 

増田ユリヤ
ジャーナリスト

 

 

※本連載は池上彰氏と増田ユリヤ氏による著書『池上彰と増田ユリヤのYouTube学園特別授業 ドナルド・トランプ全解説: 世界をかき回すトランプ氏が次に考えていること』(Gakken)より一部を抜粋・再編集したものです。

池上彰と増田ユリヤのYouTube学園特別授業 ドナルド・トランプ全解説: 世界をかき回すトランプ氏が次に考えていること

池上彰と増田ユリヤのYouTube学園特別授業 ドナルド・トランプ全解説: 世界をかき回すトランプ氏が次に考えていること

池上 彰 増田 ユリヤ

Gakken

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