潤沢な資産を持つ元エリート会社員が老後に失ったもの
75歳のAさんは、かつて一部上場企業で役員を務めた、いわゆる「成功した男性」です。都内のマンションに暮らし、貯金は7,200万円。年金も月20万円以上と潤沢な資産を誇っています。
2カ月に1回、年金が振り込まれる度にしっかりと記帳。口座残高を見ては、「よしよし、まだ金は十分ある」と、安堵していました。
このように、数字だけ見れば老後不安とは無縁の生活。ですが、Aさんは幸せとは言えない状況にありました。
Aさんが73歳の時、2歳年下の妻が病に倒れ他界。それ以来、Aさんは一人暮らしを続けており、残る家族は一人息子だけになりました。
息子は公務員として地道に働く真面目な性格です。現役時代、常に多忙だったAさんは子育てを妻に任せきりで、息子と十分に関わることのないまま年月が過ぎていきました。その結果、親子の間にはどこかぎくしゃくした、打ち解けきれない関係が残っていました。
それでも、息子は時折電話をしたり、お正月やお盆などに妻と子を連れて実家を訪れたりと、妻を亡くしたAさんを気遣っていました。人付き合いが減っていたAさんにとって、それはかけがえのない時間となっていました。
ところが、1年ほど前のある日、何気ない会話が事態を大きく変えてしまいます。
「父さん、お金の管理は大丈夫なの? 最近、高齢者を狙った投資詐欺も多いっていうから心配でさ。大きなお金を使うときは俺に相談してよ。あと、もしもの時のために、通帳とか保険のこと、ざっくりでもいいから教えておいてくれたら助かるんだけど……」
息子にとっては、父を想っての言葉。万が一のトラブルを避けるために、確認しておくべき最低限の話題にすぎませんでした。しかし、Aさんの胸に湧き上がったのは、強い猜疑心でした。
「なぜ俺の金のことに口を出す?」「もう俺が死んだ後のことを考えているのか?」
その結果、口をついて出たのはこんな言葉でした。
「これは全部、俺が一人で稼いだ金だ。お前に口出しされる筋合いはない!」
その後もねちねちと続く説教に息子は絶句し、それ以来、実家に顔を見せなくなったといいます。
「いずれ俺が死ねば、残った金は全部あいつにいく。そんなことはわかっているんだ。でも、こっちが口にするまでは、その話題を持ち出すべきじゃない。そういう分別があると思ってた」
そう怒りを見せたAさん。それから、息子も孫も訪れない家の中で、彼は孤独と向き合いながら暮らしています。今となっては強く言い過ぎたと反省。時には妻の仏壇の前で涙することも。それでも自分から電話をする勇気が出ないまま、早1年。むなしく時が流れているといいます。
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