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指数反転の背景に「暮らし向き」と「資産価値」の改善
2025年5月に公表された内閣府『消費動向調査』によると、消費者態度指数は32.8と、前月(31.2)から上昇に転じました。この数値は「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」の4つの意識指標の単純平均で構成されています。
そのなかでも注目すべきは、「暮らし向き」が2.9ポイント増の30.2、「資産価値」が5.1ポイント増の39.2と、目立った改善を示した点です。特に「資産価値」は前月の急落(▲6.2ポイント)から一転し、大きく回復しています。これは、株式市場の反発や都市部の不動産価格の底堅さを背景に、家計のバランスシートが改善しつつある兆しと見ることができます。
一方、「収入の増え方」はわずか0.8ポイントの上昇にとどまり、38.3となりました。春闘後の賃上げの効果が徐々に認識され始めたものの、物価の上昇に追いついている実感は乏しいようです。
「雇用環境」は1.6ポイント上昇し、37.3とやや改善しました。製造業や建設業の人手不足が顕著ななか、非正規雇用から正規雇用への転換支援や、最低賃金引き上げの動きが、雇用安定への期待につながった可能性があります。
しかし、消費行動そのものは依然として抑制的です。「耐久消費財の買い時判断」は25.4と、全指標のなかで最も低く、消費者の買い控え姿勢を示しています。これは「物価が高止まりするなかで、今は大きな買い物を控えたい」という慎重なスタンスと考えられるでしょう。
回答構成比を見ても、「耐久消費財は買い時ではない」と答えた割合(「やや悪くなる」+「悪くなる」)は75%を超えています。これは2022年のインフレ初期の水準と比較しても高く、消費の自粛傾向が根深いことを物語っています。
物価高見通しは続く…インフレ心理の定着か
今回の調査で最も顕著だったのは、1年後の物価見通しについての回答結果です。
「5%以上上昇する」と答えた人の割合は55.5%と、依然として過半を超えています。物価上昇率を「2%以上5%未満」と見込む人も29.9%にのぼり、合計で実に93.6%が「インフレ傾向が続く」と考えている計算です。この結果は、エネルギーや食品価格の高止まり、円安基調、そして原材料費の転嫁が続く企業行動に対する家計の敏感な反応といえるでしょう。
また、「物価は変わらない」と答えたのはわずか2.1%、「低下する」との回答は2.2%にとどまりました。こうしたデータは、日本の家計におけるインフレ心理の定着を示す一方で、「購買力の実感としての賃上げ」が伴わなければ、実質的な消費の回復には結びつかないという現実を浮き彫りにしています。
今回の調査結果は、家計の先行きに一定の明るさが戻りつつあることを示す一方で、持続的な回復にはほど遠い状況であることを改めて明らかにしました。消費者心理がわずかに回復しているとはいえ、それを支える実体経済の動向、とりわけ雇用、所得、物価の三位一体の安定が欠かせません。
今後の焦点は、①実質賃金のプラス転化…名目賃上げが物価上昇に勝る状況を作り出せるか ②価格転嫁への政府支援…中小企業が持続的に賃上げできるよう、コスト負担を緩和できるか ③物価安定と金融政策のバランス…日本銀行の政策運営が、急激な金融引き締めを避けつつ、家計と市場の期待に応えられるか の3つ。日本経済のエンジンである内需拡大には、消費マインドの本格的な回復が欠かせません。そのためには、マクロ経済政策の一貫性と、現場感覚に即したミクロな支援の両輪が求められます。
[参考資料]