今回は、投資信託にかかる諸費用は、どの程度リターンに影響するかを見ていきます。※本連載では、毎年1000を超えるファンドを分析する投信評価会社に所属する「投信のプロ」が、投資信託の基礎知識を世界一わかりやすく解説します。

長期になると大きな負担となる運用管理費用

私はよく、投資信託の費用の影響を言い表すものとして食材のロスによるたとえを用います。食材の調理におけるロスは、そのまま料理の量を減らしてしまいますよね。料理上手な奥様は、ニンジンの剥き方にも無駄がありません。でも、投資信託におけるロスはそれだけにとどまらないのです。

 

投資信託にかかる主な費用としては、投資信託の購入時に一度かかる販売用の手数料と、投資信託を保有している期間にわたってずっとかかり続ける運用管理費用があります。いずれの費用も、購入したお金から差し引かれるので、費用を支払ったという実感が湧きづらいことがくせ者です。携帯料金のように、毎月でも費用が引き落とされると、その高額さから敏感になりますが、お金の中身から引かれるとそうではないのです。ニンジンの剥き方が上手でないと、元本が減ってしまうようなものです。

 

特に、保有する期間にわたってかかり続ける運用管理費用は、長期の資産形成をおこなう身にとってはかなりの負担です。投資信託全体の運用管理費用は平均すると1.5%程度の水準です。100万円で投資信託を購入すると毎年1万5000円、10年間では15万円にもなります。じわじわと蝕んでいくのがわかりますよね。これだけでもかなり神経質になるべきですが、この費用が起因となってさらにリターンに影響を及ぼすものがあります。

 

それは、パンを作るときのロスを考えてみればわかります。実は、ロスによって失うだけでなく、それによって出来上がりのパンも大きく損なってしまうからです。このことについては、この世界の専門家でも気づいていないことが多いです。少々難しいかもしれませんが、大切なポイントなので、お話しておきましょう。

 

自家製パンを作ったことがある人は経験があるかもしれませんが、パンは種(たね)と呼ばれる練った小麦粉などをもとに、イースト菌を使ってふっくらと焼き上げます。このとき、小麦を練る最中に失ってしまう部分を、さきほどの費用と考えてください。

 

仮に、種が100グラムあったとしましょう。そして、あなたは調理の最中に10グラムを失いました。100グラムの種で2倍に膨らむパンは、もし食材にロスがなければ計算上の体積は200の大きさになります。でも、ロス(費用)によって10グラムを失ったとすると、体積は180(90グラム×2)です。10グラムを失ったのに、出来上がりのパンはロスがないものに比べて20も減ってしまいましたよね。10%の費用がかかったのに、出来上がりは20%の影響を受けてしまいました。つまり、費用がかかったせいで元本が目減りし、そのせいで収益にも影響を与えてしてしまったのです。

費用の抑制は資産形成の「スキル」

実際に、1995年から2015年までの20年間、毎年1万円ずつを日経平均株価に積み立て投資をした場合の、費用の影響を示したのが下図です。しばらく低迷していた株価もアベノミクスで息を吹き返しました。株価が低迷した時期にコツコツと積み立てを続けたことで収益をあげることができたのは、長期投資と時間分散のお手本のような投資行動です。でも、その間に費用がかかっていたことから元本が減ってしまっており、単純に費用×年数によるロス以上に、収益をあげられていなかったのです。2%の費用がかかっていたケースでは、費用がなければ得られていたであろう収益の7割近くが、費用の影響によって失われていたことがわかります。

 

投資信託にかかる費用により、元本が減少(食材のロスが発生)し、それによって収益(出来上がりのパンの量)もさらに影響を受けたのです。

 

【図表】毎年1万円ずつを日経平均株価に積み立て投資をした場合の、費用の影響

 

投資信託は、個人が資産形成をおこなうにあたって優れた機能を有しています。その主なものは、少額からの積み立てによる分散投資、長期投資が可能であること、そして再投資機能があることです。でもその一方で、比較的高い費用がかかります。

 

最近のような低金利の環境下にあっては、投資から得られる金利利息や配当も限られるため、費用を無視することはできません。むしろ、費用を抑えることは、そのまま収益に結び付くことから、立派な資産形成のスキルといっても過言ではありません。加えて、費用は投資理論ではないため、資産形成の教科書ではそれほど詳しくは教えてくれません。ここでもう一度、費用について見つめ直す機会にしてはいかかでしょう。

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