借金地獄に陥った息子、父の死を知り…
定年後も堅実な暮らしを続けていた田中一郎さん(仮名)。年金は月20万円を超え、積み立てていた投資商品の収益もあり、慎ましくも安定した老後を送っていました。
一方、三人の子どものうちの一人である裕司さん(仮名)は、まったく正反対の人生を歩んでいました。浪費癖が直らず、無計画な借金を繰り返し、気がつけば負債総額は500万円を超えていたのです。
裕司さんは、自力で借金を返済しようと努力することなく、どこかで「いずれ父の遺産がある」と高をくくっていました。
そんな矢先、一郎さんが急逝。裕司さんは悲しみに暮れるどころか、「これで借金が返せる」とばかりに父の通帳を持ち、銀行に駆け込みました。
「親父は金持ちだったから、この預金で全部片付くはずだ」
そう信じて窓口に向かった裕司さんでしたが、行員から返ってきた言葉に耳を疑います。
「申し訳ありません。この口座は凍結されています」父の死が銀行に伝えられていたため、口座はすでに凍結されていたのです。裕司さんの知らぬ間に、ほかの親族が一郎さんの死亡を銀行へ伝えていたのでしょう。
銀行口座の名義人が亡くなると、その口座は一時的に凍結されます。これは、相続財産を保全し、不正な引き出しを防ぐための法的措置です。相続人であっても、正式な手続きを踏まなければお金を引き出すことはできません。
「なんでだよ! 親父の金だろ! 俺の借金を返すために必要なんだ!」裕司さんが声を荒げたところで、銀行の対応は一切変わりませんでした。
相続人が複数いる場合、預金の引き出しには相続人全員の同意が必要であり、遺産分割協議書の提出が求められます。この書類には相続人全員の署名・押印が必要で、適正に作成されていなければ効力が認められません。
