思わぬところから舞い込んだ「社長」の話
せっかく再起をかけて、Cさんのご厚意に甘え、頭を下げてつかみ取った再就職でしたが、またしても自分の身勝手な行動から、失意のうちに会社を去ることになりました。
「これでまた無職に逆戻り、か……」
この頃には長女は5歳、長男は4歳になっていたし、私も年齢的に40歳の大台が見えてきました。不惑の年齢のはずなのに、自分の身勝手さのあまり定職にも就けず、家族も養えていない。何より、世間から必要とされていない─―そんな自分に苛立ちと、情けなさと、そして将来への不安が入り混じった感情を日々募らせていました。
しかし、運というものはどこから巡ってくるか分かりません。手を差し伸べてくれたのは、またしてもA運輸時代の取引先で物流会社を経営していたD社長でした。
このDさんは福岡の物流業界内でも人格者として知られている人物で、特にA運輸のOBで独立した人や、ほかの物流会社に転職した人の多くが、Dさんを頼ってアドバイスを受けたり仕事を紹介されたりしていました。そのDさんから、私のもとに直々に電話があったのです。
後日、Dさんの会社を訪ねてお会いし、昔話にもひとしきり花を咲かせたあとで、Dさんは「本題」を切り出しました。
「ところで、荒牧さんは会社を辞めたばかりでしょう? 実はうちに休眠状態の会社があるんだ。それを利用して社長をやってみないか?」
え? 社長? ……まったく予想だにしなかった提案に、私は耳を疑いました。
「僕は何も手出しや口出しはしないよ。荒牧さんがこの会社という器を自由に使って、好きなことをやればいいじゃないか。どうかな?」
「ありがとうございます。ぜひやらせてください!」
断る理由はありません。私は二つ返事で引き受けることにしました。
思わぬところから舞い込んだ「社長」の話。A運輸を退職して以降、何かとうまくいかないことが続いていた私は、これがラストチャンスとばかりに、この会社に全てを懸け、これまで築いてきたノウハウや経験を全て投じよう、と決意しました。ここから、私の新たなチャレンジが始まりました。
