昔と比べ核家族や病院死が増えたことで“死”は遠い存在に
現代は核家族化していたり、病院で死を迎える人が増えたりしたため、医療・福祉関係者でもない限り、人が死ぬまでの経緯を、順を追って経験している人は少ないと思われます。事故や突然死でない限り、人は突如死を迎えるわけではなく、ほぼ次の経緯をたどって死に至ります。もしかすると、そのときが近づいたら訪問診療医や訪問看護師から話があるかもしれません。
1.意識混濁(亡くなる2週間前くらいから、呼びかければ目を開けたり、話そうとしたりしますが、だんだんと眠っている時間が増えていきます)
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2.死前喘鳴(呼吸しかしていないような状態で、呼びかけにも応えなくなります。嚥下機能が低下するので唾液や痰をうまく飲み込めず、呼吸とともにゴロゴロという音が出て、喘いでいるような苦しそうな息づかいになります。亡くなる2日前くらいから、3割程度の人に見られます)
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3.下顎呼吸(口を開けて呼吸し、顎を上下に大きく揺らすような荒い呼吸をするようになります。顎は動いていますが、呼吸があまりできていない状態です。亡くなる7、8時間前から9割以上の人に見られます)
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4.四肢のチアノーゼ(身体に送られる酸素不足により手足が紫色になり、冷たくなって いきます。亡くなる5、6時間前に8割の人に見られます)
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5.橈骨動脈の触知不可(血圧が下がり始め、手首内側にある拍動がなくなります。亡くなる2、3時間前にほぼすべての人に見られます)
ただ、これはあくまで一般的な流れです。人によっては、1から間を飛び越えて5へ数時間で移行する場合があります。もし、そうであったとしても、1から5のいずれかの状態をたどって、人は死を迎えるのです。
また、呼吸や心臓が停止しても、聴覚だけは最後まで残るといわれています。この話を知っていた私は、父親が亡くなったときに耳元でそれまでのお礼の言葉を伝えました。すると、呼吸と心臓が止まった父親が一筋の涙を流したのです。偶然かもしれませんが、それでも私は父親に最後のメッセージを届けることができたと感じました。この経験から、私は患者の家族には亡くなったあとであっても、何か伝えたいことがあれば、ご遺体に声をかけることを勧めています。
