いざというときのために知っておきたい親の本心
私はかかりつけ医として、通院できない患者のために30年間、在宅医療に携わってきました。今のように在宅医療が一般的になり多くの人が利用するようになる以前から、介護が必要な高齢者の訪問診療を行っています。そうしたなかで患者の家庭環境や家族との関係などもいろいろと知る機会がありました。そこで感じたのが、やはり親と介護する子ども側との間で、親の病状が悪化した場合の話し合いがほとんどされていないことです。
厚生労働省が発表した「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査 報告書」(2023年)によると、家族等や医療・介護従事者と人生の最終段階における医療・ケアに関することについて話し合ったことがある(詳しく話し合っている、一応話し合っている)と回答した人は、29.9%にとどまり、「話し合ったことがない人」が70%近くを占めています。
つまり親の介護が必要になった際の準備や話し合いをしている人は3割程度しかいないということです。突然の事態に慌てないためにも事前の話し合いは必要です。なかなか切り出しにくいのはごもっともですが、まずは親が元気なうちから、親はどんな気持ちでいるのか、どんなサポートが必要なのかを理解するために、親子で語り合う時間を設けてほしいと思います。
親たちも本音では子どもに介護してもらい、最期を看取ってもらいたいと思っています。しかし子どもたちに負担をかけたくないという親心から、それを言い出せなかったりわざと施設に入りたいなどと言ったりすることがよくあります。
だからこそ親の本心を理解したうえで、親子の双方が納得した形で介護生活を始め、そしてどんな看取りをするかを話し合っておくことが大切です。こうした話し合いがない場合、いざ命に関わる状態となったときに、いろいろな問題が起きてしまいます。
高齢の親を介護する子どもにとって、突然やってくるいちばん困った状況とは、命に関わる一刻を争う処置が必要なときです。延命処置をどうするのか、延命を希望する場合の気管切開や胃ろうなどはどこまで対応するのかなど、緊急搬送された医療機関で家族はさまざまな判断を迫られます。親と話し合っていない場合には、そうしたときに延命処置をしてもらうのか、自然な流れのままを受け入れるのか、簡単には下せない決断を子ども側が速やかにせざるを得なくなってしまうのです。
