身体機能や認知機能の低下を防ぐためには
国内外のさまざまな専門家が発表した高齢者に関する興味深い研究結果をご紹介します。心身の機能の維持に役立つヒントが満載です。
注目の研究結果より①
身体や認知機能の低下につながるフレイルを予防するうえで、「しゃべる/社会参加」の重要性が注目されています。
アメリカの心理学者、ジュリアン・ホルトランスタッド教授らが2010年に行った調査・研究によると、寝たきりや要介護にならず、健康寿命を延ばすために最も効果的とされているのは、禁煙や運動、肥満解消よりも「人とのつながりをつくること」であり、社会的な交流のある人はない人に比べて、早期死亡リスクが50%低下する、と発表されました。これにより、「孤立」は身体や認知機能の衰えを加速させる要因であることが分かりました。
注目の研究結果より②
アメリカで長寿の仕組みを研究しているスティーブ・コール教授が、被験者を「人に親切な行動を一日3回する」「ごみ拾いなど世の中に役立つことをする」「好物を食べるなど自分がうれしいことをする」という3つのグループに分けて、いずれかを1カ月行う実験を行いました。すると「人に親切な行動を1日3回する」グループだけが身体の炎症を促す遺伝子の働きを抑えられたという結果になりました。
コール教授によると、人類の原始生活では集団で狩りなどをしていたため、仲間との協調性を失い、孤独になることは死に直結してしまうので、それが現在においても人が生きるうえでは重要なのではないかということです。
注目の研究結果より③
運動疫学の専門家である日本の金森悟准教授は、高齢の被験者を4つのグループに分けて追跡調査を行いました。
1.スポーツの会に入ってしっかり運動をしている人
2.スポーツの会に入らないで一人黙々と運動している人
3.スポーツの会に入っているけど、あまり運動しない人
4.何もしていない人
このなかでいちばん元気だったのは、「1.スポーツの会に入ってしっかり運動をしている人」で、いちばん不健康だったのは「4.何もしていない人」でした。これは普通に考えても分かると思います。
意外だったのは、残った「2.スポーツの会に入らないで一人黙々と運動している人」「3.スポーツの会に入っているけど、あまり運動しない人」であれば、「3.スポーツの会に入っているけど、あまり運動しない人」のほうが長生きをしているという結果になったことです。
この研究結果に限った話とはいえ、運動することも大切ですがコミュニティで人と交流を図ることは、そのなかでの楽しみや役割が生きがいにつながり、心身を活性化させて、フレイルを遠ざけるのかもしれません。若い時から、自然に人と交流してきた人は、知らず知らずのうちにフレイルを予防する生活を送っている可能性があります。
一方で、特に男性に多いのが、仕事一筋で生きてきた人が定年後に、突然、人との交流がなくなり、フレイル状態に陥ってしまうというケースです。
もし、親がこういった状態になっていたら、地域包括支援センターなどに早々に相談をして、地域の活動や趣味のサークルなどを紹介してもらったり、必要であればデイサービスなど公的な介護サービスの利用を促したりしてください。
現在は高齢者の身体に負担の少ないマシーンなどを設置した運動やリハビリをメインに行うところも増えてきました。運動が苦手であれば、脳の活性化に役立つとされているカードゲームや麻雀などを取り入れたデイサービスもあります。
「うちの父は座ったら動かない」と諦めずに、将来、自身の介護負担を減らすためにも、「適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態」であるフレイルのうちに医療や介護の専門家に相談することが大事です。
