惨めな老後は嫌…質素倹約を突き詰めた現役時代
Aさん(71歳)は、郊外の分譲マンションで暮らす主婦。夫は新卒で入社した会社を65歳まで勤め上げた、生真面目な元会社員です。ピーク時の夫の年収は800万円。暮らしている地域では、まずまずの安定した収入を得ていたと言えます。
一方、Aさんは家庭を支えながら、週3日、朝8時から夕方5時までパート勤務を続けてきました。年収は150万円ほど。家計のやりくりや将来設計は、すべてAさんの手に委ねられていました。
「夫は昔からあるだけ使うタイプ、私は真逆で心配性なんです」とAさん。「だから、夫は月3万円のお小遣い制にして、足りない分があればその都度言ってもらうことにしてました。でも、常に『うちはカツカツ』『住宅ローンと子育てでお金はない』って言っていたからか、それ以上欲しいって言うことはほとんどなかったですね」
Aさんの家計管理は、自分にも家族にも厳しく、ムダな出費は徹底してカット。安いものやセール品が大好きで、その堅実な金銭感覚は子どもたちにも自然と受け継がれていきました。買い物中に「ママ、こっちの方が安いよ」と言われたことも、今では懐かしい思い出です。
周囲の友人たちは、夏休みや年末年始に国内外へ旅行。ハワイやヨーロッパに出かける話を聞いても、Aさんは「うちはうち」と割り切り、車で行ける範囲のキャンプに。場所も毎回同じ。慣れていれば想定外の出費も少なく、ガソリン代と食材費だけで済むのが何よりの魅力でした。
そうした倹約の日々を積み重ねた結果、住宅ローンを完済し、子どもたちを無事に独立させたAさん夫婦。気がつけば、退職時の貯金は6,500万円に達していました。
「夫が65歳で退職したお祝いの場で、初めて貯金額を伝えたんです。そしたらもう、腰を抜かすほど驚いてましたよ。『ずっと金がないって言ってたの、あれ何だったんだ』って」
堅実に、計画的に将来を見据えてきたAさん。贅沢を避け、今という時間を我慢してまで、老後の安心を優先してきました。
「若いときは多少お金がなくても『若いから仕方ない』って言い訳できるでしょ。でも、年を取ってお金がないと、惨めだと思ったんです。子育て中は黙っていてもお金が出ていくから、贅沢は老後になってから。夫も私も自由になってからって決めていたんです」
しかし、老後の贅沢を楽しむ機会はほとんどなかったといいます。年金生活に入って半年ほど経った頃、義母(夫の母)が玄関先で転び、それが原因で要介護状態に。義父はすでに他界しており、介護施設への入所は本人も夫も強く拒否。結果、Aさんと夫の2人で、義母を自宅で看ることになったのです。
「義母がいるのに、自分たちだけ楽しく出歩いたり旅行したりなんてできないじゃないですか。一時的に施設に預ける方法もあるけれど、『旅行なんて行って、その時に何かあったらどうする』って夫は嫌がる。かといって、私だけ友達と行くのも薄情ですし。気がついたら5年以上経ってしまいました」
自由のきくお金はあっても状況がそれを許さない。Aさんはぽつりと語ります。
「貯金もあるし、年金も夫婦で月26万円ほど。でも、今お金があったって何にもできないんですよ。こうなるなら、若いうちにお金を使っておけばよかった。そう思うこと、何度もあります。子どもとの楽しい思い出をもっと作れたのに。夫も、会社員時代に少ないお小遣いで我慢をしてきたんじゃないかって。行き過ぎた節約だったのかもしれないって後悔しています」
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