診療報酬の抑制で懸念される、医療の質・量の低下
こうして、診療報酬がいつまでも抑制され続けると、医療の質の低下が懸念されます。診療報酬はすべて、医療機関を運営するための経費に使われます。勤務する医師、歯科医師、看護師、理学療法士、作業療法士、診療放射線技師、臨床検査技師、事務職員などの人件費や治療や処置に使う医薬品費、CTやMRIなどの医療機器費と包帯、注射器などの医療材料費、そして水道光熱費や通信費などの設備関係費などです。
つまり、診療報酬は医療機関を当たり前に運営していくためには欠かせないお金です。そのお金を削られると、医療機関はまともな運営ができなくなります。特にここ数年、原材料価格の高騰などですべての物の値段が上がっているなか、診療報酬を前回並みに据え置かれるだけでも「今までできていたこと」ができなくなります。ここが大きなポイントです。
例えば、医薬品費や医療機器費が足りなくなれば、医師の意図した医療行為ができにくくなります。そろそろ買い替えるべき検査機器の買い替えが先延ばしになれば、診断の精度に影響が出ます。
人件費が足りなくなると、今まで一緒に働いていたスタッフを減らさなければならなくなります。それによって日常業務が円滑に回らなかったり、患者に提供できていたサービスが提供できなくなったりします。熟練のスタッフがいなくなれば、医療の質や安全性の低下にもつながります。勤務医に欠員が出ると、一つの診療科を閉鎖しなければならなくなるかもしれません。それまで受けていた救急外来も受けられなくなる恐れがあります。
医療現場の働き手不足が引き起こす問題
また、少子高齢化による労働者の減少なども相まって、医療現場で募集をかけても人が来ないという状況に陥っています。政府が最低賃金を引き上げたり、政府の働きかけに応えたりする形で大企業などが従業員の給与のアップを実施してきています。そのため、対策として医療機関でも賃金を上げて募集することになり、人件費上昇が深刻な問題となっています。
私の周辺の同業者には、募集で人が集まらないことを理由に閉院を真剣に考えるケースも出始めています。従って、世の中のさまざまな物の値段が上がるなか、診療報酬だけが抑制され続けると、病院や診療所などの運営に支障が出て、患者に提供できる医療が質・量ともに低下し、結局は患者の不利益につながります。
日本の医療を質・量ともにこれまでどおり維持していくには最低限、物価上昇分の引き上げはぜひとも必要です。私も一人の開業医であり、この件については利害関係者にあたるため強くは言えませんが、診療報酬引き上げを訴えている医師は、なにも自分の報酬を上げてほしくて言っているのではありません。
今までどおりの医療を行うために、今までどおり患者の役に立ちたいために声を上げているのです。そのあたりを誤解している人がまだまだ多いことは、私としても残念でなりません。
原口 兼明
医療法人 原口耳鼻咽喉科 院長
医学博士
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