アンケート結果は本当だった
そこで、このアンケート結果が本当かどうかを調べるために、自分で試すことにしました。恐る恐るサウナに入ってみたところ、滝のような汗をかいて、そのあと水で流したら、驚くべきことに肌の状態はとても良くなったのです。
そのとき、私はそれまで漠然と考えていた、汗をかくこととは必ずしも悪ではないという思いが確信に変わりました。
汗を悪者とする考え方は、「汗をかくこと」と「かいたあとの汗」を同一に考えることから生まれたものです。
しかし、実際にはこの2つは別のものです。たしかにかいたあとの汗を放置すれば症状の悪化につながりますが、汗をかくこと自体が症状を悪化させるというエビデンスはありません。
同様に、発汗を避けるような指導をしたことで、症状が改善したというエビデンスもないのです。そもそもアトピー性皮膚炎の患者はもともと発汗機能が低下していて、汗をかきにくい状態、つまり発汗障害の状態になっています。
この原因は、汗孔閉塞による汗の滞留、皮膚炎に伴う汗腺機能の低下、汗腺から組織中への汗の漏出、神経症などが分かっています。汗に限らず、体の機能はできるだけ正常に戻したほうがよいわけですから、汗をかくことはアトピー性皮膚炎治療の到達目標の一つになります。
もちろん、汗をかいたまま放置すればかゆみが増すため、汗をかいたらすぐに冷たいシャワーなどで洗い流すことが必要です。汗をしっかりとかいて、かいたらすぐに洗い流すことによって、肌の状態は悪化するどころか改善することもあります。
この発見をして以来、「発汗」と「汗」を区別するようにガイドラインで記載されるのが、私の夢になりました。汗は必ずしも悪者ではないことを多くの人に知ってほしいと願うようになったのです。
そしてその後、長崎大学の室田浩之教授らの尽力によって「汗をかくこと(発汗)」と「かいたあとの汗」を区別して考える必要があることが、2016年度のアトピー性皮膚炎診療ガイドラインに記載されました。
2024年度の最新のガイドラインでは「アトピー性皮膚炎の患者さんが発汗することの是非については、発汗を避ける指導が症状を改善したとするエビデンスはなく、発汗を避ける指導は必要ない。むしろ発汗後の汗対策指導を重視し、発汗低下症例では汗をかけるようになることが治療の到達目標の一つとなりうる」と記載されました。
ここでは、アトピー性皮膚炎患者が汗をかくことを避ける指導は必要ないことが明記されています。それよりむしろ、汗をかいたあとの対策を重視し、汗をかけるようになることが治療のゴールの一つであるとされました。
まさに、私の長年の夢が叶った瞬間でした。患者としての私自身の体験からも、皮膚科専門医として多くの患者を診てきた経験からも、汗は悪者ではないということ、発汗と汗を区別すべきことなどがガイドラインに明記されたのです。これは非常に画期的なことだといえます。
石黒 和守
石黒皮膚科クリニック
院長(日本皮膚科学会認定専門医・医学博士)
