「ステップアップ式ゴール設定」
ステップ① 汗をかいて皮膚を丈夫にすること
具体的には、まず患者に対して「汗をかけるようにすること」を促します。汗をかくことがなんの治療につながるのかと、驚く患者は多いです。
実際、アトピー性皮膚炎の患者が汗をかくと、かいた汗が刺激となってかゆみが強くなることがあります。しかし最近の研究では発汗によって皮膚のバリア機能が強くなることが判明しています。汗や汗の中に含まれる「抗菌ペプチド」は化学物質などから皮膚や体内を守る働きがあり、汗をかくことは立派な治療になるのです。
その際に、アトピー性皮膚炎の者が発汗を怖れないようにケアすることが肝心です。
ステップ② アトピー性皮膚炎のかゆみに慣れて日常生活を送る
十分に汗をかけるようになったら、次の段階である「かゆみを意識しないようにすること」という目標に切り替えます。アトピー性皮膚炎のかゆみは、かなり強く耐えがたいものがあるため、多くの患者にとって、この段階は困難を極めます。
直接的な治療ではありませんが、かゆみが気にならなくなれば、精神的な安定が得られて日常生活が送りやすくなります。
また、皮膚をかいてしまうことが減るので、症状の悪化を防ぐことができます。アトピー性皮膚炎の患者が今後快適な日常生活を送るには、必ず乗り越えなければならない試練なのです。
ステップ③ 外用剤の長期使用に対する抵抗感をなくすこと
ステップアップ式ゴール設定の第3段階では、「プロアクティブ療法」による症状のコントロールに切り替えます。プロアクティブ療法とは、症状が出る前に予防として外用剤などの治療薬を使う方法のことです。
症状が出てから薬を使用する治療法は「リアクティブ療法」と呼ばれます。これまでのアトピー性皮膚炎治療は、症状が出てから対応するリアクティブ療法が中心でした。
しかし、アトピー性皮膚炎は再発することが多く、リアクティブ療法ではうまく病状をコントロールできないことがあります。つまり、再発を繰り返しやすいアトピー性皮膚炎の症状を、将来にわたって抑え込む治療法がプロアクティブ療法というわけです。
患者によっては「長期間のステロイド剤使用はリバウンドが起こるから嫌だ」と言って外用剤の長期使用を拒絶する場合があります。
また、子どもの患者は時間の経過で症状が軽くなることがあり、親からすれば「もう治療は十分ではないか」と感じやすいようです。
しかし、アトピー性皮膚炎の肌は正常に見えても組織には炎症細胞が残っていて、再び炎症が起こりやい状態にあります。完治する前に薬の使用をやめてしまったら、病気の悪化は火を見るより明らかです。
ステップアップ式ゴール設定における最終段階は「何も気にしないで日常生活を送れる」ことですが、その直前の壁となるのがこうした長期に及ぶ外用剤使用への抵抗感です。アトピー性皮膚炎の経過を良好にするには避けて通れません。
多くの人が外用剤の長期使用を拒む原因はステロイドの副作用ですが、現在はステロイドをまったく使わないノンステロイド外用剤が登場しています。
例えば、ステロイド外用剤の主な副作用として一時的な皮膚の萎縮が挙げられますが、ノンステロイド外用剤ではそのような心配がありません。ノンステロイド外用剤によるプロアクティブ療法は、長期に及ぶ治療でも患者への負担が小さい優れた治療方法なのです。
石黒 和守
石黒皮膚科クリニック
院長(日本皮膚科学会認定専門医・医学博士)
