繰下げで年金は増えるが「損益分岐点」や「健康年齢」に注意
公的年金は現役世代が支払う年金保険料を高齢者などに支給する年金に充てる「賦課方式」という仕組みで成り立っています。
しかし、少子高齢化で公的年金の支え手が不足する中、「支給額が減るのではないか」「制度が破綻するのではないか」「年金保険料を払う意味があるのか」など様々な意見・疑念が飛び交っています。
昨年5月には経団連のトップらが高齢者の定義を5歳引き上げる案を経済財政諮問会議で示し、「年金受給開始を70歳に後ろ倒しする布石では」などと議論を巻き起こしました。
とはいえ現時点では年金を老後生活の柱と考え、資金計画を立てるしかありません。年金の受給開始は65歳からが基本ですが、それ以外に「繰上げ」「繰下げ」の選択肢もあります。特に長寿化が進む中で注目されているのが「繰下げ受給」です。
通常は65歳になる前に年金受給の手続きをしますが、手続きをしなければ繰下げになり、1ヵ月繰下げるごとに年金が0.7%ずつ増加。1年の繰下げで8.4%、最大の10年では84%年金が増えます。1歳刻みで示したのが以下の表です。
【繰下げによる増額率】
・66歳:8.4%
・67歳:16.8%
・68歳:25.2%
・69歳:33.6%
・70歳:42.0%
・71歳:50.4%
・72歳:58.8%
・73歳:67.2%
・74歳:75.6%
・75歳:84.0%
※昭和27年4月1日以前生まれ(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している)の人は、繰下げ上限年齢は70歳まで。増額率は最大で42%
例えば、65歳から受け取ると月10万円の年金だった人が75歳まで(10年)繰下げると84%の増額に。単純計算で月18万4,000円になります。
このように最大84%の増額というのは一見すると非常に魅力的です。しかし、繰下げて待つ間にもしものことがあったら……? 本人は1円も年金を受け取れません。寿命を事前に予想できない以上、判断は非常に難しいものになります。
受け取り時期を考える際の鍵になるのが「損益分岐点」。年金を繰下げた時に、65歳から受給した場合の総額を上回るのが何歳かという指標です。
例えば、5年繰下げて70歳で受給開始した場合の損益分岐点は81歳11ヵ月。10年繰下げて75歳で受給開始した場合の損益分岐点は86歳11ヵ月です。81歳といえば男性の平均寿命とほぼ同じ。「心身ともに自立し健康的に生活できる期間」とされる健康寿命はさらに9年ほど短くなります。
結局のところ、得するか損するかは結果論になり正解はありません。繰下げをして年金を受け取れない期間があっても問題ない、「年金はもしものときの保険」と割り切って考えられる人については、繰下げが選択肢に入るといえそうです。
なお、繰下げを途中で辞めたい場合、65歳からの受給開始扱いで遡ることもできます。とはいえ、高橋さんのケースを見ても分かる通り、繰下げはお金だけではなく人生そのものにも大きく関わってきます。できるだけ後悔しないよう、慎重に選択することをおすすめします。
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