関税の引き上げにより、日本での購入メリットが減少
前回の続きです。中国人旅行者頼みのインバウンド市場が間もなく終わりを迎える理由を見ていきます。
2つ目の理由は中国政府による関税強化です。
実は、中国人が日本で爆買いをする大きな理由に、中国国内で日本製品を買うよりも、日本に来て購入する方が安いから、というものがあります。そこには中国の税制が大きく関係しています。
中国には「関税」「増値税」「贅沢品などにかかる税」という3つの税があります。中国で化粧品や香水、時計などを購入しようとすると、中国国内に輸入するための関税がかかります。さらに日本でいうところの消費税である「増値税」もかかります。そのうえ、二重課税のかたちで贅沢品に消費税が加算されるのです。
たとえば日本であれば1万円で購入できる化粧品が、中国では1万6000円になるのですから、これでは大量に買って親戚に分けたり、転売したりする者が出るのもうなずける話です。
しかし、中国人旅行者が日本などで爆買いすることは、中国からすれば税収の機会損失といえます。中国人旅行者が海外ではなく中国国内で消費を行えば、その分、中国経済も潤うからです。
そこで中国政府は2016年4月、旅行者が海外で購入した商品に課す関税を大幅に引き上げました。これまで4段階(10~50%)だった関税を3段階(15~60%)に簡素化し、1段階高い税率に引き上げたのです。対象は食料、タバコ、衣料・身の回り品、耐久消費財など多岐にわたります。
関税引き上げによって、わざわざ日本で購入してもメリットがなくなれば、バブルのような爆買いもいずれ収束していくことは明らかです。
また、2015年から、中国のデビットカードである「銀聯カード」での海外での現金引き出し額が制限されたのも懸念材料です。銀聯カードは中国で6億人に普及しているといわれているカードで、日本の大手免税店やドラッグストアでも、銀聯カードの利用を見込んで、支払い時に割り引きが受けられるサービスが急増しました。しかし、海外における現金引き出し額が制限されたことで、爆買いにブレーキがかかる危険性が出てきました。
ネットショッピングの普及も爆買いの歯止めに…
さらに、中国国内のネット環境が進み、ネットショッピングができるようになってきたことも爆買いのブレーキの3つ目の理由となります。
何度も述べているように、爆買いが加速した原因には、中国では安全で品質面で満足できるものが手に入らないということがありました。日本に来なければ、高品質の製品を購入することができなかったからです。しかしここ数年、中国ではECサイト(インターネットショッピングサイト)の普及が進んでいます。
中国インターネット情報センターの調査によると、中国人のインターネット人口は、2015年で6.8億人です。13億人超の国民人口から見れば、まだまだ行きわたっているとはいえませんが、それでも日本のインターネット人口が1億人であることを考えれば、かなりの数になります。さらに、スマートフォン利用もかなり進んでおり、6.2億人に上ります。
こうしたインターネットの爆発的な普及によって、国内のEC利用が急増しているのです。中国国内のサイトだけでなく、海外のサイト(越境EC)で買い物をする人も多くなりました。ジャック・マー氏率いるアリババが運営する越境ECサイト「天猫国際」は、Yahoo!をはじめとした多くの海外企業と提携をし、大幅に拡大を続けています。
このようにわざわざ日本に来なくても、中国にいながら日本の商品を手に入れることができるようになったのです。
【図表 越境E C 市場規模】