インバウンド市場の消費は4割以上が中国人
日本のインバウンド市場で主役の座を占めているのは「爆買い」に象徴される中国人です。2015年の訪日外国人旅行者数ランキングでベスト5に入ったのは、中国、韓国、台湾、香港、アメリカでした。
図表1のグラフは、これらの国・地域ごとに見た訪日外国人旅行者数と1人あたり旅行支出額、旅行消費額です。
【図表1 国籍・地域別に見る訪日外国人1 人あたり旅行支出と旅行消費額】
全外国人旅行者の1人あたり支出額は、17万6168円です。これに対し、中国からの訪日外国人旅行者は、1人で28万円以上のお金を使っています。中国人旅行者は人数の上でも多く、おまけに1人あたりの支出額も大きい。その結果、インバウンド市場における消費の4割以上が、中国人によってもたらされているのです。
しかも、中国人1人あたりの旅行支出額は拡大を続けています。今、中国人旅行者の間で最も人気のある商品は、化粧品や医薬品です。
親戚づきあいが多く、メンツを気にする中国人は、帰国後、親戚中におみやげを配ります。医薬品はコンパクトで荷物としてかさばりにくいこともあり、多くの中国人旅行客が買って帰るのです。2014年、日本に行ったら買うべき医薬品「神薬12」が中国のSNS上で発表されました。日本人にはなじみ深い「熱さまシート」や「龍角散」などがランクインし、大幅に売り上げを伸ばし話題になりました。品質のよい日本製品は、中国人にとって、とても人気のあるブランド品として人気を集めています。
また、日本製品を日本で買って中国国内で売る「転売ビジネス」が盛んなことも、「爆買い」の背景にあります。日本で薬や化粧品を大量に買い占め、中国で倍近くの値段で売る。そんなビジネスが横行しているのです。おむつや日焼け止めなどが中国人によって買い占められ、品薄になったことが社会問題になりましたが、これも転売目的であったといわれています。
2014年10月には、関西で中国籍の男3人が出入国管理法違反(資格外活動)の容疑で逮捕されています。彼らはドラッグストアで紙おむつを買い占める仕事に従事し、在留資格外の活動をしたのです。
これらの要因から、化粧品・医薬品メーカー、家電量販店、ドラッグストア、百貨店、ホテルといったさまざまな業種が「中国人旅行者特需」で業績を伸ばしているのです。このように急速に拡大している日本のインバウンド市場ですが、実は日本はまだまだ「観光後進国」です。
円高が進めばインバウンド市場は終わり!?
図表2の観光庁による「外国人旅行者受け入れの国際比較」を見てみると、2014年のデータでは日本は1341万人の旅行客を受け入れています。日本国内だけで見れば勢いがあるといえますが、世界で比較するとなんと世界22位です。アジアだけで見ても7位で、中国、香港、マレーシア、タイ、マカオ、韓国についでの劣位と、いまだ観光という面では後進国なのです。
外国人旅行者の人数だけではなく、収入面でも後れをとっています。世界経済フォーラムが2015年「観光競争力ランキング」を発表していますが、日本の競争力は第9位。しかし、観光収入を見てみると、このランキング上位15か国の平均の3分の1程度しかないのです。
【図表2 「 外国人旅行者受け入れの国際比較」】
しかも現在盛り上がりを見せている中国人旅行者頼みのインバウンド市場すらも、間もなく終わりを迎えます。
その理由はいくつか挙げられますが、まず1つ目は円高です。
訪日外国人旅行者が増えた原因の1つは、急激な円安でした。2011年10月に史上最高値の1ドル=75円32銭を記録した円相場は、アベノミクスの金融緩和によって円安へと反転。2014年末には1ドル=120円台にまで戻りました。この結果、外国人旅行者にとって日本は「安く訪れることができる観光地」になったのです。
ところが2015年末以降、状況は変わりつつあります。円相場は1ドル110円台を割り込むなど円高傾向が見えてきました。今後を予測するのは非常に難しいのですが、仮に円高が進んだ場合、買い物目当てでやってくる中国人をはじめとする外国人旅行者が、日本を敬遠する可能性もあります。