転職・独立組は大きなリスクを取っているのか
とはいえ、世の中でスイスイと転職し、待遇をどんどん改善できている方もいますよね。いきなり独立開業して、うまくいっている方もいます。こういった方々は会社員から見ると「リスクを取って成功した人」に見えます。けれども、そうとは限らないのです。
実は、起業で成功する方の理由には「親の資産」が絡んでいるという論文があります。親が金持ちだと、初期投資を親からもらえます。さらに、人脈も親から紹介してもらえるでしょう。大口の取引先から「うちの子が最近こんな事業を始めまして……」と言われたら、「じゃあ、初回だけでも発注してみようか」となるのが世の常です。そして、当然ながらこんな理由で取引先を手にしたことを、当人は語りません。はたから見ると「起業して間もない人が、あんな大手企業から案件を受注してる!」となるわけです。
また、私のように起業を経験している人間が親族にいると、決算のやり方、融資の申請方法、おすすめの助成金、人材採用のポイントなど、継承できる知識も多数あります。そのため、親の裕福さや経験は本人の起業成功率へ大きくかかわるのです。
転職でも似たような事象が起こりえます。たとえば、親が外資系企業に勤めており、転職でステップアップすることが常識とされる世界で生きていたら、その価値観を子供は学びます。また、周囲に転職経験者が多数いれば話を聞けますし、何よりリファラル採用のチャンスが巡ってきます。
リファラル採用とは、広義の縁故採用のこと。つまり、前職などで一緒だった方を自社へ誘い、面接を受けてもらう採用形式です。外資系企業ではリファラル採用が一般化しており、リファラル経由で実際に採用された場合は、従業員へのキャッシュバックがあるケースもあります。採用する企業も「あの人、前職で優秀な方だよ」という社員のつてを使って優秀な人材をヘッドハントできるため、一般公募するより効率的というわけです。
と、一言に転職・起業といっても、難易度には大きな差があります。自分が経験したこともない分野へ借金で踏み出すのと、親族や周囲のつてを使って動くのとは、手漕ぎボートとクルーザーくらい、話は違うのではないでしょうか。
世の中にいる転職や起業で成功されている方が、どれくらい「本人の力だけ」でのし上がったかはわかりませんし、また、周りへ頼るのが別に悪いことでもありません。ある武器は全部使うのが、キャリア構築のセオリーですから。とはいえ、そういう成功例を目にして「自分もああなれるはず」と思うのは、ちょっと待ってね、ということです。
トイアンナ
ライター/経営者
