「同居して父を支えてきたのに…」長男の思い
1年後、俊夫さんが亡くなると、茂雄さんは封がされた遺言書を見つけました。内容が気になった茂雄さんは弁護士に相談しました。弁護士からは、手書きの遺言書は家庭裁判所で検認を受けるまで開封できないことを説明され、茂雄さんは家庭裁判所で検認手続きを行いました。
検認手続きの日、家庭裁判所には、茂雄さんと二朗さんの二人が出席しました。家庭裁判所で遺言書が開封され、その内容を目にした茂雄さんは驚愕しました。同居して生活を支えてきた自分の取り分が予想よりも少なかったのです。
茂雄さんは再び弁護士に相談し、「遺留分侵害額請求」が可能かどうかの調査を依頼しました。
その結果、俊夫さんが亡くなった時点で預貯金は3,800万円に減少していましたが、株式は4,500万円に評価額が上昇していました。不動産の査定額は業者により1,700万円から2,500万円と幅がありました。
遺留分は財産の4分の1です。不動産の査定額が高い2,500万円の場合、支度金500万円を加えた茂雄さんの取得分は合計3,000万円となり、俊夫さんの財産総額1億800万円の4分の1にあたる2,700万円を超えるため、遺留分の侵害はありません。しかし、不動産の査定が低い1,700万円の場合、茂雄さんの取得分は合計2,200万円となり、財産総額1億円の4分の1である2,500万円を下回り、遺留分の侵害が発生します。
弁護士から、不動産の評価次第では請求が認められない可能性もあるとの説明を受け、茂雄さんは迷いました。しかし、遺言書に書かれていた「定職にもつかず」「親のすねをかじってきた」という言葉を思い出し、このまま引き下がることはできないと考え、遺留分侵害額請求を決意しました。
その結果、俊夫さんの願いとは裏腹に、兄弟間で争いが生じてしまいました。
弁護士からのアドバイス
俊夫さんは遺留分を侵害しないように注意して遺言書を作成したにも関わらず、兄弟間で争いが起きてしまいました。
では、俊夫さんはどのように遺言書を作成すればよかったのでしょうか。
・不動産の価格
不動産の評価方法には、固定資産税評価額、相続税評価額、そして実際の時価(売買される際の金額)などさまざまなものがあります。遺留分侵害の判断では時価が用いられますので、実際の時価を知るために不動産業者に査定を依頼する俊夫さんの行動自体は間違いではありません。
ただし、不動産業者の査定には、現地確認を行わない机上査定や、依頼を得るために意図的に高めの金額を提示するケースもあります。一社の査定だけを信用して遺言内容を決めることは危険で、複数の業者から査定を取ることがリスクを避けるために重要です。また、正確な不動産評価に基づいて算定するためには、不動産鑑定士などの専門家の力を借りる必要があります。
・株式の価格
株式の評価額は、遺言者が亡くなった日の株価によって算定されます。そのため、遺言書を作成した時点では遺留分を侵害しない内容であったとしても、亡くなった日の株価次第で遺留分を侵害する恐れがあることに注意が必要です。
・付言事項
遺言書の法的効力のないメッセージ部分を付言事項といいます。本件の場合、遺言書の「茂雄は定職にも就かず、長年親のすねをかじってきた。教育費などの負担が多い二朗の家庭と比べ、自宅があれば困ることはないだろう。自立のための支度金として500万円を残すので、この先は自分で何とか頑張ってほしい。」という記載が付言事項にあたります。
付言事項には感謝の言葉や遺言の理由を記載し、遺産分配の不公平感を和らげる効果がありますが、俊夫さんのように「愚痴」と取られかねない表現があると、むしろ争いを引き起こしてしまう恐れがあります。
・では、どうすればよかったのか?
不動産や株式を含む遺産の場合、遺言書を作成した時点で遺留分を侵害していないか正確に判断するのは困難です。ぎりぎりを狙った内容ではなく、余裕をもった内容の遺言書を作成することがトラブル防止につながります。
また、不動産や株式の評価額が変動する場合は、一度の遺言書作成だけでなく、専門家に継続的に評価を依頼し、適宜遺言書を見直す必要があります。
いずれにしても、遺留分を侵害しないように遺言書を作成することは容易ではないため、お早めに弁護士など専門家に相談し、サポートを受けることがトラブルを生まない遺言書を作成することにつながります。
三浦 裕和
弁護士
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