今回は、親同士が結んだ土地の贈与契約が子に引き継がれるかどうか、事例を見ていきます。本連載は、日本公証人連合会理事・栗坂滿氏の著書、『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』(エピック)の中から一部を抜粋し、遺言、相続にまつわるトラブルとその予防・解決法を紹介します。

AさんとBさんの間で結ばれた「死因贈与契約」とは?

≪トラブルの事案≫

建築業を営むAさんは、中学時代からの友人のBさんから「わしの甲土地は遊んでるからを資材置き場にでもただで使ってくれてもええぞ」と言われたことから好意に甘えて甲土地を資材置き場に使ってきました。

 

そのうち友人のBさんは、Aさんに「甲土地は役に立ってるようやな。わしが死んだらあの土地はお前にやるわ」と言ってくれ、2人は死因贈与契約を結び、契約書も作成しました。次の契約書がそれで、AさんもBさんも署名押印しました。

 

 

その数年後、友人のBさんは重い病気に罹ってしまいました。Aさんは、入院中のBさんを見舞おうとして車で病院に向かっているとき、事故に巻き込まれ亡くなってしまいました。そして、その後間もなく友人のBさんが病院で息を引き取ったのです。2人が亡くなってからですが、Aさんの営む建築業の後継者の長男Cさんは、Bさんの相続人のDさんから、「甲土地に置いてある資材を撤去して明渡してくれないか」と要求されました。

 

Cさんは、甲土地は父も自分もいずれ自分たちの土地になると期待してきたものであり、父の受贈者たる地位を自分が引き継いだので甲土地は自分が贈与を受けたものと同様だと主張しましたが、Dさんは受け入れてくれず、もめています。

 

受贈者が贈与者より先に亡くなった場合は・・・

≪トラブル診断≫

死因贈与契約とは、贈与者の死亡によって効力が発生する贈与の契約で、Aさんと友人のBさんは、Bさんが死亡すれば、甲土地がAさんに贈与される効力が生じる旨の合意ができ、この契約を書面で明らかにしていたわけです。

 

これとよく似たものに死亡によって贈与が成立する遺贈がありますが、遺贈は契約でなく贈与者の単独行為であり、遺言でするものです。しかし、両者は多くの共通点があり、民法は死因贈与については「遺贈に関する規定を準用する」としています(民法554条)。

 

そして、民法994条1項で「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と規定していることから、死因贈与にもこの規定が準用されるとするのが多数説であり(東京高裁平成15年5月28日判決判例時報1830・62)、AさんがBさんの死亡以前に死亡した本件では、死因贈与契約も効力を失い、Aさんの死亡によって使用貸借も終了するのでCさんは甲土地から資材を撤去して明渡さねばならなくなりそうです。

 

≪トラブルを避けるためのワクチン接種≫

Cさんのように困らないようにするにはどうしておいたらよかったでしょうか。それは、AさんとBさんが折角契約書を残して死因贈与契約を結んだのですから、その際に契約条項に「受贈者Aが贈与者Bの死亡以前に死亡した場合でも贈与の効力は、Aの相続人Cに及び終了しない」旨の条項を設けておくことが考えられます。

 

あるいは、予備的な贈与契約としてCも含めた死因贈与契約を締結しておくことも考えられます(「Bの死亡以前にAが死亡しているときは、Cに贈与する」旨の二次的贈与契約)。

 

また贈与契約前にAさんがBさんの許しを得て無償で甲土地を使用していたことは使用貸借に当たりますが、この使用貸借も、借主のAさんが死亡すれば終了してしまいますので(民法599条)、口頭だけの使用貸借契約にとどめておかず、書面にしておき、その条項に「借主Aが貸主Bの死亡以前に死亡した場合でも使用貸借は終了せず、その効力はAの相続人Cに及ぶ」旨の一文を入れておくことも考えられます。

 

贈与にせよ使用貸借にせよ無償契約は極めて不安定な状況に置かれがちですので、万が一のときに困らないように書面契約としていざというときに対処する条項を入れておくことがトラブルを避けるワクチンといえます。

本連載は、2016年8月1日刊行の書籍『トラブルのワクチン―法的トラブル予防のための賢い選択―』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

トラブルのワクチン ―法的トラブル予防のための賢い選択―

栗坂 滿

エピック

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