「年金額が増えなくても65歳で受け取って後悔していません」
松井幸雄さん(仮名・70歳)は、60歳で定年した後も嘱託社員として元の会社で5年間勤務。65歳で退職しました。松井さんには離婚歴があり、子どもはおらず独り身。65歳での年金受給額は月14万円程度でした。
70歳までの住宅ローンがある松井さんにとって、月14万円という年金額は決して十分ではありません。当時の貯金額は退職金も含めて1,300万円程度。やはり繰下げに悩んだと言います。
「10年は最初から頭になかったけど、5年待てば42%アップでしょ。5年って結構あっという間じゃないですか。そこに悩みましたね」
同年代の友人や同僚とも、よくその話をしたのだとか。
「ほとんど65歳からっていう意見だったんですけど、本当にたまに繰下げるっていう人もいて、『お金が増えるから得じゃん、独り身で長生きしたらどうするの』と言われたりしました。その人は年金がすごく増えるんだと思ったら、関係ないのに羨ましくなったりして(笑)、余計に悩んじゃいましたよ」
それでも結局65歳からの受給を選択したのは、こんな理由からでした。
「1年はあっという間だけど、その間に急に倒れるかもしれないし、何があるかわからない。繰下げて5年間年金がもらえない期間は働くか貯金を使うしかないけど、働けなくなる可能性もありますよね」
松井さんは65歳で退職後、求人情報誌で見つけた介護施設で介護助手のアルバイトを5年間、つい先日まで続けていたといいます。
「結果論でいうと繰下げていたら得だったと思いますよ。今のところ病気の予兆もないし、長生きしそうだしね。でも私は幸運だっただけ。この数年で、同年代で癌になったとか身体が不自由になったという人の話もけっこう聞くようになって、亡くなった人もいます。私は年金のおかげで健康なうちに国内旅行にもたくさん行けてよかった。貯金の一部で投資もしたからお金もそんなに減っていないし、65歳からの選択、全然後悔していません」
年金に対する考え方は人それぞれ…後悔のない選択を
松井さんの場合は繰下げをしなくてよかったという結論でしたが、年金をどう受け取るかはその人の経済状況、考え方によって変わり、正解はありません。
「いま年金をもらわなければ生活が成り立たない」という人の場合、65歳で受け取るか、あるいは年金が減ることを覚悟の上で繰上げて受け取る選択をすることになるのではないでしょうか。
一方、繰下げ期間(年金を受け取れない期間)をなんとかできる、「年金は保険みたいなものだから」と考える人については、繰下げも選択肢に入るでしょう。前述した通り、5年、10年という繰下げになれば増額幅は大きくなります。「少し受給を待つことで悠々自適な老後」という夢も叶うかもしれません。
とはいえ、繰下げして受給する前に万が一のことがあれば、1円も年金がもらえない可能性があることは理解しておく必要があります。また、何のために増額したいのか目的をはっきりさせておくことも必要でしょう。
いずれにしても、後悔のない選択をすることが大切だといえます。
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