(※写真はイメージです/PIXTA)

約40年にわたり国内外の景気分析をしてきたエコノミスト・宅森昭吉氏が、景気や市場を先読みするヒントを紹介する本連載。今回は、「今年の漢字」について見ていきましょう。

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社会現象や景気を反映する「今年の漢字」

日本漢字能力検定は毎年12月12日(語呂合わせで「いい字一字」」の日)、清水寺にて、その年1年の世相を表す「今年の漢字」を発表している。子どもから大人まで一般の人が投票し、多くの票を集めた漢字一文字が選ばれる。

 

「今年の漢字」は、そのときどきの景気局面や経済状況を反映する傾向がある。景気が良く明るいムードが社会に満ちている年は、「愛」「安」などの明るい意味の漢字が選ばれやすい一方、金融不況のような景気の悪い年は、「倒」「毒」などの暗い意味の漢字が選ばれがちだ。

 

2024年の「今年の漢字」は「金」になった。「金」は、2000年・2012年・2016年・2021年に続き、五度目の選出になる(図表1)。

 

[図表1]「今年の漢字」の推移

オリンピック開催年は、大きなショックがなければ「金」が多い

前回、四度目の「金」となった2021年は、第32回夏季オリンピック東京大会が開催された年だった。

 

2024年はオリンピック・パラリンピックで日本選手が活躍し、多くの金メダルを獲得した。また、大谷翔平選手がメジャーリーグを舞台に、ベーブ・ルース以来のリアル二刀流での大活躍を見せ、MVP獲得という金字塔を打ち立てた。

 

日本漢字能力検定協会はHPにて、『5回目の『金』が示す、 “光”の「金(キン)」と“影”の「金(かね)」』と題し、24年の今年の漢字に「金」が選ばれた理由をまとめている。

 

“光”の「金(キン)」の主な理由として、①数多くの「金」メダル獲得に沸いたパリオリンピック・パラリンピック、➁大谷翔平選手が50-50達成と3回目のMVP獲得で値千「金」の活躍をしたこと、③佐渡「金」山が日本で26件目の世界遺産に登録されたこと、④20年ぶりに新紙幣が発行されたことが話題になったことを挙げている。

 

一方、“影”の「金(かね)」の主な理由としては、①政治とカネ・裏「金」問題などで政局が大きく変わり、衆議院議員選挙で与党が過半数割れしたこと、➁全国で闇バイトによる「金」目当ての強盗事件が多発し、多くの国民が不安になったこと、③物価高騰が家計を圧迫していることを挙げている。

 

夏季オリンピックで日本選手が活躍し多くの金メダルを獲ることは、国民の大きな関心事になりやすい。調査期間の直前に新潟中越地震が起きた2004年は「災」、リーマンショックがあった2008年は「変」が選ばれたように、ショッキングな出来事が発生すると「金」以外になるが、そうでない開催年は「金」が選ばれる可能性が大きいと思われる。

3・11発生も景気拡張局面が継続した2011年は、「前向きな漢字」が続々ランクイン

[図表2]2011年~2024年の「今年の漢字」ランキング

 

東日本大震災が発生しても景気拡張局面継続となった2011年は「絆」が選ばれた(図表2)。「震」(1995年・阪神淡路大震災)や「災」(2004年・新潟中越地震)ではなく、復興への前向きな気持ちを表す漢字が第1位に選ばれたのだ。

 

2011年のベスト10には、「絆」以外にも「助」「復」「支」といった前向きな漢字がランクインした。世の中の前向きな雰囲気もあり、2011年の景気の落ち込みは極めて短期間で、景気は拡張局面を維持した。

 

2024年も正月の能登半島地震や各地の豪雨被害など災害の多い年であったが、緩やかな景気回復が続いたと見られる。2024年の「今年の漢字」のランキングを見ても、第2位「災」、第4位「震」など悪い意味の漢字が上位に入ったものの、「金」には勝てなかった。

 

なお、24年の「今年の漢字」ランキングで注目されるのは、第3位に「翔」が選ばれたことだ。50-50達成に3回目のMVP受賞と大活躍だった大谷翔平選手の名前から支持されたと思われる。

 

 

宅森 昭吉

景気探検家・エコノミスト

景気循環学会 副会長 ほか

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