「相続放棄」によって相続権が回ってきた場合、負債を引き継ぐことになる可能性もあるため、相続すべきか否か悩むことでしょう。また、相続する遺産に「不動産」が含まれている場合は、安易に相続放棄を選択すべきではないケースもあります。相続放棄によって回ってきた相続権には、どのように対処すべきなのでしょうか。本記事では、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が事例をまじえて、相続放棄の判断をするときに注意すべきポイントについて詳しく解説します。
兄の相続、息子も姉も相続放棄
大吾さん(75歳・男性)から相談がありました。兄が亡くなり、相続人の息子が相続放棄したので、相続権が姉と自分のところに回ってきたといいます。
兄の財産は地方の実家の土地、建物で売れても500万円程度。建物を解体したりすると大して残らないよう。預金は150万円残っていますが、兄の息子が相続放棄したのには理由がありました。
兄は20年程、難病で入院しており、生活費に困ってクレジット会社に借金したことがあると聞いており、返済は済んでいるというものの、亡くなったきっかけで請求されるのでは? という不安があるからだといいます。
現在、土地に抵当権はついていないと確認できましたが、限定承認(相続によって得たプラスの財産を限度として、マイナスの財産も引き継ぐこと)で土地と預金のみ希望したとしても、相続後、借用書などが出てきて請求されたら困る、どうすればいいかというご相談でした。
限定承認?やはり相続放棄?
相続人の子が相続放棄し、次の順位の姉も相続放棄したあと、相続人が大吾さん一人になったときは大吾さんが限定承認の手続きをすることは可能です。
限定承認する際、財産の概要を確認した上で借入金があるか否かも調べることが望ましいところです。
抵当がなく、身辺に借用書などが見当たらない場合は隠れた負債はないのではと想定されます。回収する気がある債権者であればとっくに動いているはずです。
万一、想定外の借入金の返済を求められたとしても相続した範囲までということで持ち出しにはなりません。 しかし、不安を抱えたくないとすれば、やはり相続放棄してしまいたいと大吾さんの本音が見えました。
不動産は放棄できない
民法940条により、「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」となっており、相続放棄は受理されるが、財産管理人などを立てない限り管理責任が残るとされています。
借金だけであれば相続放棄は簡単ですが、不動産がある場合、相続放棄の申請が受付されたとしても相続人に管理責任があります。地方の不動産は国が引き取らないため、相続して売却しておかれる方が負担は少なくなります。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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