一筋縄ではいかない相続税対策
相続すべき物件を守るには、場合によっては資産の組み換え作業が必要です。しかし、これだけでは相続税対策にはなりません。物件を売却した資金で収益物件を購入するといっても、そのままでは将来にわたってインカムゲインが入ってくる資産への組み換えができただけで、入ってくる家賃収入をどうすればよいかなど、問題は他にも多くあり、そのままでは相続税対策は解決していないことになります。
そこでおすすめしたいのが、「法人」を設立して相続税対策を実行することです。
例えば、子どもが設立した法人が、親の相続財産を事前に買い取り、その収益を次世代、次々世代に分配する、といった方法で相続税の節税を行うものです。いわゆる「プライベートカンパニー」を設立して、富の分配を会社組織で実行しようというわけです。
なぜ、こんな面倒なことをするのでしょうか。
答えは簡単です。「円滑な相続」を可能にし、加えて「相続税の節税」につながるからです。現在の日本では相続のトラブルは日常的なものになりつつあります。しかも、一度こじれてしまうとせっかくの家族関係も取り返しのつかないものに発展します。
もともと法人設立を使った節税というのは、20年以上も前から普通に行われていた節税方法のひとつです。しかし、以前の法人設立による節税法というのは、「管理会社」としての法人設立が一般的でした。例えば、アパートとかマンションといった収益物件を保有している資産家は、それら収益物件で得られる収益を法人に集めて、自分の奥さんや子どもなどを役員とし、役員報酬を支払うことで所得を分散し、節税を行っていたわけです。
こうした管理会社による法人設立によって、収益を自分の相続人となる家族に渡す行為は、ほかに実際の管理会社が介在することも多いことから、最近では「管理の実態がない」という理由で、管理料率を下げる方向で国税不服審判所の裁決が出ています。
活動実態のある法人を作り、活用する
そこで最近注目されてきたのが、設立した法人に将来の相続財産を所有させてしまう方法です。管理会社の場合は、不動産そのものの移転はなく、活動実態そのものがありませんでした。
しかし、被相続人(父親)が所有する相続物件そのものを、設立した法人に譲渡して所有権を移転させてしまうことで、実態のある法人にすることができるわけです。相続財産を実際の法人に譲渡または現物出資してしまうことで、実質的な生前贈与が可能となり、親は法人に資産を売却した場合には「現金」を、現物出資した場合には「株式」を保有することになります。
相続財産を現金で持つことと、不動産で持つこととは大きく意味が異なります。現金で持っていれば、生前贈与が簡単にでき、また経費としてさまざまなモノやサービスに使うことが可能になります。柔軟性のある相続税対策を実行できるというわけです。一方の現物出資をした場合には、不動産そのものを保有するよりも株式で保有するほうが、相続税上の評価額が低くなります。
さらに日本の税制では、法人に対する課税と個人に対する課税では、今後、どう考えても法人にやさしく、個人に厳しくなることが予想されます。そういう意味でも、相続財産を法人名義に換えてしまうことが望ましいのです。