(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化などを背景に、経営者の高齢化が深刻な日本。実際、年間3万社以上の企業が廃業しており、その主因は「後継者不在」にあると、株式会社タナベコンサルティングの藤井健太執行役員はいいます。経営戦略のひとつとして「事業承継」が急務となるなか、成功のカギはどこにあるのでしょうか。2社の事例とともに、詳しくみていきましょう。

【事例】「早期着手」が功を奏す…中堅企業2社の事業承継

A社…15年かけた長期事業承継計画を実行

ここからは2社の事例を紹介する。

 

中堅企業A社では、15年ビジョンおよび事業承継計画を策定し、それを実直に推進している。経営者のご子息は他社に就職したばかりであるが、ご子息へ事業を引き継ぐ意思を確認したうえで、ご子息にバトンタッチするまでの間はプロパーの社員に社長を任せることにした。

 

持ち株会社を設立し、現状の国内2事業と海外事業の3本柱でグループ経営を行う構想を描き、それを推進する組織体制(5年後、10年後、15年後)を整備している。

 

次の経営ブレーン候補のみならず、次々世代のブレーン候補の人材育成もあわせて実施している。もちろん、ご子息とはプランを共有しながら、引き継ぎの意思について随時確認を取り、心変わりしないようコミュニケーションを取っている。

 

ご子息の経営能力向上や経営者としての適性の見極めは今後の課題であるが、次々世代のブレーンを育てることで、組織で経営できる体制が構築できるだろう。

 

もしご子息の経営者適性が弱くても、持ち株会社のオーナーとして引き継ぎ、優秀なプロパー人材に事業会社の経営を任せればいい。人材育成は将来の社長・役員候補のアセスメントも担っているのだ。

 

B社…「ジュニアボード」を導入し、「経営者人材プール」の仕組みをつくる

B社では、15年前にジュニアボード(次世代の経営幹部育成プロジェクト)を導入し、将来の経営者人材のプールを継続的に行っている。ジュニアボードとは中堅幹部による模擬役員会であり、主にビジョン策定やビジョン実装のための経営システムとして取り入れている企業が増えている。

 

各部門から1~2名メンバーを選抜してチームを編成し、中長期ビジョンのドラフトを作成し、随時役員会に上申してアドバイスをもらう。出来上がったビジョン(ドラフト)は役員会で審議・意志決定の上で完成させる。

 

ジュニアボードからの提言はおおむね正式なビジョンに取り入れ、提言したメンバーがリーダーとなり次年度よりビジョンを力強く推進していく。

 

実施難易度が高いテーマは、次年度以降に随時ジュニアボードのチームを編成し、実装の具体策を作成する。役員会への上申、翌年度の方針への落とし込みは、ビジョン策定プロセスと同様である。

 

出所:タナベコンサルティング作成
[図表4]ジュニアボードとは 出所:タナベコンサルティング作成

 

同社におけるジュニアボードの実装は約15年前に遡る。当時のジュニアボードでは後継者(現社長)がリーダーを務めた。数年前に事業承継を実施したが、当時のプロジェクトメンバーから役員・執行役員を輩出している。まだ新体制へとシフトしている最中ではあるが、現時点では承継は成功しているといえる。

 

そのポイントは、現社長が自身のブレーン候補の見極めをできたこと、そして共にビジョンを策定した仲間としてコミュニケーションが増えたことで、メンバーを適時要職に抜擢することができ、計画的に自身の経営体制の基盤を作り込めたことだろう。

 

後継者が若くして会社全体を俯瞰して未来を考える体験ができたこと、承継後の経営体制確立のスピードが格段に速まったことがジュニアボードの成果であるが、もっとも大切なことは、先代の経営者が承継の10年以上前に後継体制づくりに着手したことである。

 

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