贈与?遺贈?売買?
パートナーの父親が協力してくれるといっても、いきなりは相続人でない藤井さんの名義にすることはできません。パートナーから相続人ではない藤井さん名義にするには、遺言書で、「遺贈する」として書いておいてもらうことが必要でした。
今からできることは、まず父親が相続して名義変更をし、それから藤井さんに遺贈、贈与、売買のいずれかの方法で権利を譲るとなります。
たとえば2分の1は父親名義のまま住み続け、ご主人の父親に公正証書遺言を作成してもらって遺贈を受けることも方法の一つで負担も少ないことです。
結局は買い取った
ところが、亡くなったパートナーには妹さんがいるということ。遺贈を受ける場合に、将来、父親の相続で妹さんとトラブルにならないとも限らないため、不安は残したくないとのこと。また、贈与や遺贈など無償でもらうことには抵抗があったようで、結局は父親の権利を藤井さんが買い取ることになりました。
幸い、購入価格より値下がりしている時期でしたが、財産評価からすると2分の1は1,000万円以上になりましたが、これで遠慮なく自分のものだと言えるのですっきりするということでした。
売買契約書を作成して、相続登記と売買の所有権移転登記を一度にすることで全部を藤井さんの名義にすることができました。
子供がいないと配偶者でも大変
仮に、結婚届を出した配偶者であっても子供がいない場合は、夫の父親の権利が3分の1あります。マンションは住んでいる配偶者が相続していいと譲歩していただけることが多いとは思いますが、それでも遺産分割協議書に実印押印と印鑑証明書、戸籍謄本の協力が必要になります。
理解が得られないと法定割合の財産を相続すると主張される場合もなきにしもあらずですから、最悪はマンションを売却して分け合わなければいけないことになります。
仮に配偶者の立場でも、遺言書を作成しておかなければ簡単にはいかないこともあるのです。
若くてもお互いの遺言書は必要だった
事実婚を選ぶカップルも少なくないでしょうが、こうした現実の問題があることは、直面しないと気がつかないことかもしれません。幸い、藤井さんの場合は、パートナーの父親に理解があり、協力を得られたことは幸いでした。これからの長い人生ですから、藤井さんにとって、自分の住むところが確保できた安心感は大きいと思いました。
まだ40代ということもあり、自分が亡くなったあとのことをイメージできなかったことは致し方ないところで、自分の病気で藤井さんに配慮する余裕もなくなってしまったのかと思いますが、それでも、「遺言書」を作成することを誰かが勧めてくれていればと思うところです。
病室でも遺言書は作れる
仮に亡くなる前に相談があれば、すぐに手配をして公正証書遺言を作ることはできたと思います。
公正証書遺言は公証人や証人が出張して病室で作れるのです。藤井さんがパートナーに意思確認をして内容も確認し、本人の代わりに戸籍謄本や印鑑証明書を取得することができれば、公証役場と打ち合わせをして段取りします。事前に公正証書遺言の原稿を作成して本人に確認しておいてもらえますので、当日は30分程度でできあがります。
作成日当日は、公証人と証人2人がパートナーの病室に出向いて、立会い、内容を確認の上、本人が署名すれば公正証書遺言が完成します。
印鑑証明書や戸籍謄本、マンションの登記簿、固定資産税納付書など必要書類がそろい、内容が決まれば翌日でも作成は可能です。公証役場の原稿ができ次第ということになります。このようにして遺言書が作れていれば、パートナー本人が安心できたのではないかとも思えて、残念に感じます。
◆相続実務士のアドバイス
●できる対策
公正証書遺言を作成してマンションを遺贈すると記載。
金融資産なども分け方を記載しておく。
●注意ポイント
不動産は生前贈与を受けることもできるが贈与税がかかります。
入籍すれば配偶者の立場となり、相続人ですが、子どもがいない場合は親が相続人となるため、やはり遺言書は必要と言えます。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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